高部:たとえば1月25日に記事(21歳医大生が「売春」にまで手を染めた事情)を公開した際には、その日1日だけで19通の相談が来ています。いちばん多かったときには記事公開後1週間で41通も来ています。これは2016年9月8日の記事(月収13万円、37歳女性を苦しめる「官製貧困」)を公開したときです。
山田:「どうしていいのか先行きがみえない。私の声を聞いてほしい」という切実で長文の相談が本当に多いんですよね。
この連載は、相談内容を読んで気になった人に編集担当から連絡をして取材のアポを取っている。この手法に中村さんは当初、懐疑的でしたね。
中村:最初は、応募してきた人だと成り立たないと思っていました。僕自身はこれまで最下層の人を取材してきましたが、知り合いなどを通じて紹介してもらっています。
そもそも、ちょっと貧しい程度の普通の女性では記事にならないだろうとも思っていた。しかし、そうではなかった。一般女性の生活や状況がこんなに荒れているとは思わなかった。就職や結婚に一度失敗すると転げ落ちてしまう。コミュニケーション能力など含めて、特別な能力がある女性以外は、立ち直りが効かない社会になっているという印象です。
「底辺の世界」で競争が始まった
山田:普通の女性が衝撃的な貧困状態に陥っている。
中村:僕は、裸になる女性や売春する女性の取材をずっとしているライターです。そこで感じているのは、裸の女性たちの境遇は時代を5~7年先取りしていること。裸の仕事は女性の最終手段で経済的なセーフティネットだったのですが、まずい状況になっていると最初に感じたのは2007年あたりのリーマンショック前です。
まずAVにいくら出演しても借金が返せないケースを聞いて、「ええ?」と思った。それまでは腹をくくってAV出演すれば、ある程度の借金は返済することができましたから。
普通の女の子が裸の世界に続々足を踏み入れるようになったのも、同じ頃です。それまでは裸の仕事をする理由を聞けば、ある程度理由がつかめた。すごく不幸な育ちだったり、ダラしなかったり、消費過剰だったりした。それが2000年代半ばあたりから少しずつ普通の子が現れ始めて、2007年あたりにはその傾向が明白になった。
つまり普通の子が裸になるようになって、セーフティネットだった底辺の世界で競争が始まった。そうなると1人あたりの稼ぎは減る。それどころかちょっと難のある裸の世界に救われていた層は、月収20万円年収換算で240万円のラインを割ってきて、裸になっても食べていけなくなってしまった。そうすると生活保護を受けるようになっていく。地盤沈下が起きてしまったのです。
山田:「いくら真面目に働いてもまともに稼げない仕事」にはまり込んでいる方が多い点も衝撃です。
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