トランプが北朝鮮を攻撃できない6つの理由 むしろ危険なのは偶発的な軍事衝突だ

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だが、軍事行動といっても、さまざまな形態があり、これまで述べたことは、地上部隊による攻撃の場合である。目的が非常に限定された攻撃や懲罰的な攻撃は、イスラム国(IS)に対する空爆や今回のシリアに対するミサイル攻撃などの前例に鑑みても、選択肢になりえないと決めつけるべきではない。

ただし、北朝鮮のケースはシリアと異なり、地上部隊を派遣する困難さが少なくともある程度は該当する。北朝鮮の反撃能力はシリアの比でない。また、休戦協定に違反すること、安保理で承認を得られないことなどは、たとえ限定された目的の行動でも、同じ条件である。

むしろ危険なのは、偶発的な軍事衝突だ。現在、米空母のカール・ビンソンが予定を変更し、護衛艦を引き連れて朝鮮半島に向かっている。昨年は北朝鮮が核やミサイルの実験を行ったので、米国と韓国は合同軍事演習を大幅にレベルアップした。米軍は大型爆撃機のB-52やB-1Bを朝鮮半島に派遣した。

北朝鮮側でも緊張が高まっている

どの国も安全保障のため、日常的に軍事的活動を行っている。通常は訓練の範囲にとどまっているとはいえ、情勢いかんで、訓練であってもレベルアップし、危険になることがあるし、示威行動にまで発展することもある。今回の米国による空母派遣も、基本的にはその範囲を超えるものでなく、北朝鮮に自制を求め、米国の断固たる姿勢を示すのが目的であり、攻撃することがすでに決定されているのではないと思う。

とはいえ、軍用機や軍用艦船が特定の地域に集中すれば、そのような危険が増大する。その結果、軍事衝突が起こった例は少なくない。

北朝鮮外務省は8日、「米軍のシリア攻撃は明白な侵略行為だ。核兵器を持たない国だけを選んで横暴にたたいてきたのが、歴代米政権だ。トランプ政権も少しも変わらない」と、非難した。今回の攻撃が北朝鮮への警告とされることにも「それに驚くわれわれではない」と反発した。

党の機関紙である労働新聞は翌9日、「米国と追従勢力の戦争挑発は、危険ラインを越えている。(金正恩)最高司令官を絶対的に信じ、明日、核戦争が勃発するとしても恐れない。核兵力を中心とした軍事力は国の主権を守る宝剣だ。今日の現実は、核戦力を強化してきた、われわれの選択が正しかったことを実証している」と豪語した。さらに11日には「米国による先制攻撃の兆候があれば、米国に核攻撃する」と力を込めた。

裏返せば、北朝鮮側においても、米国の空母派遣などに緊張が高まっていることがうかがわれる。そもそも北朝鮮が国連決議に違反して行動していることが原因なのは確かだが、米朝双方ともに感情を高ぶらせているのであれば危険だ。

美根 慶樹 平和外交研究所代表

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みね よしき / Yoshiki Mine

1943年生まれ。東京大学卒業。外務省入省。ハーバード大学修士号(地域研究)。防衛庁国際担当参事官、在ユーゴスラビア(現在はセルビアとモンテネグロに分かれている)特命全権大使、地球環境問題担当大使、在軍縮代表部特命全権大使、アフガニスタン支援調整担当大使、日朝国交正常化交渉日本政府代表を経て、東京大学教養学部非常勤講師、早稲田大学アジア研究機構客員教授、キヤノングローバル戦略研究所特別研究員などを歴任。

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