「犬肉」の消費が急増するインドネシアの衝撃 バリ島だけで年間7万頭が食用になっている

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カナダ出身の動物保護調査の専門家でシンガポール在住のブラッド・アンソニーによれば、インドネシアでは今も、よほど特別な機会でなければ牛肉など買えないという人が多くいる。それでも犬や猫の肉ならば手が届くようになっているというのだ。

「まったく実地的かつ農業的な視点から言うと、肉用に犬や猫を育てるのは、スペースにしろ餌にしろ牛を飼育するよりはるかに少なくて済む。だから低価格なのだ」とアンソニーは言う。「生産者にとっても消費者にとっても、主な動機はそうした経済性にある」

温め効果抜群のタンパク源

手頃に買えるという以外に、犬肉には特別な健康効果があると考える人も多い(冒頭のシティオが言った体を温める効果も、食品は温かいエネルギーを持つものと冷たいエネルギーを持つものに分けられるという伝統的な考えによると思われる)。

インドネシア政府は、年に何頭の犬が食用に供されるために殺されたかや、消費量はどの程度かといったデータを集めていない。これは犬が牛や豚や鶏のような家畜として分類されていないからだ。このため、食肉加工や流通、販売、消費に対する規制もない。

インドネシア国民の大多数を占めるイスラム教徒は犬肉を不浄なものと考える傾向がある。ただし豚と違い、イスラムの伝統では犬肉食がはっきりと禁じられているわけではない。

だが動物愛護運動の関係者に言わせれば、犬肉食はイスラム教徒が多く暮らす地域でも盛んなようだ。伝統的に犬の肉はあまり食べられてこなかったバリ島(ヒンズー教徒が多い)でも、同様の傾向があるという。少数民族の中には、バタク人(冒頭のシティオもそうで、キリスト教徒が多い)のように、何世紀も前から犬肉を食べてきた人々もいる。

バリ動物愛護協会の推計では、バリ島だけで年間7万頭の犬が食用にされているという。

バリ動物愛護協会の創設者ジャニス・ジラーディは言う。「私たちの調査では、犬の肉を買っている人の60%は地元の女性だ。犬肉は体を温める効果が最も高く、かつ最も安価なタンパク源だと考えられている」。ジラーディは米国出身で、バリ島に何十年も暮らしている。「黒い犬を食べるとぜんそくなどの病気に効果があると考えられている」。

ジャカルタ市内にある犬肉食専門店「ベツレヘム・レストラン」で犬肉を調理するシェフ(写真:Kemal Jufri/The New York Times)

ジャカルタ動物救援ネットワークのカリン・フランケンは、全国規模での犬肉食に関するデータを集めようとしている。同ネットワークの調査では、ジャワ島中部の都市ジョグジャカルタでは1日当たり215頭の犬が食べられており、首都ジャカルタではその数は少なくとも「2〜3倍に」なると見られるという。犬を都市部に供給しているのはジャワ島のほかの地域で、野良犬を捕まえたり飼い犬を奪ったりして肉に加工しているという。

「国中で取引されている。ジョグジャカルタでは、犬肉料理にご飯が付いてたった8000ルピア(約67円)だ」とフランケンは言う。

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