「産後クライシス」をこじらせる夫の共通点 危機を糧にする!夫婦のリスクマネジメント

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しかし、ちょっと待ってください。拙著『<喧嘩とセックス>夫婦のお作法』でも解説していますが、低下しているのは「配偶者を本当に愛している」と断言できる人の割合です。妻側からの愛情の量が平均して下がっているわけではありません。ということは、粗っぽくデータを読むならば、2歳児期における夫と妻の差は17.7%だけです。34.0%の夫婦は愛し合っているといえます。

48.3%の夫婦はお互いに愛を失っているのですからお互い様です。もっといえば、もし結果が逆だったとしたら、きっと「出産を境に、夫は妻への興味をなくす。ひどい!」という話になっていたことでしょう。

要するに、どっちが悪いなんてことを論じても意味がないのです。産後クライシスの問題を減らしたいのであれば、「お互いの愛を削る悪循環」を食い止めることが大切なのです。

産後クライシスに関する研究結果が示すこと

トロント大学の調査では、産後の女性について一般的に、最初の数週間にわたって、夫に対する「肯定的感情」が減少することが報告されています。目白大学人間学部心理カウンセリング学科の小野寺敦子教授は、「親になることにともなう夫婦関係の変化」という論文で、親になる前に比べて、親になって2年後、3年後では、夫婦ともに相手への「親密性」が低下することを明らかにしています。

まさに産後クライシスです。

また、イタリアで行われた小規模な研究では、産後の敵対的感情には母乳の分泌を促すホルモンであるプロラクチンのレベルの高さが関与していることが報告されています。動物の実験でも、プロラクチンが母親を大胆不敵にすることが報告されています。

小野寺教授は「親になることにともなう夫婦関係の変化」という論文の中で、親になる前、親になった2年後、親になった3年後のそれぞれの時点での、夫婦の親密性、我慢、頑固、冷静を数値化し、評価しました。それによれば……。

◎ 夫婦ともに親密性の得点が親になる前に比べ、親になってから2年が経つと有意にその値が低くなっていた
◎ 親密性得点は子どもの誕生前には妻のほうが有意に高かったが、親になると両者の得点間に有意差は見られなくなっていた
◎ 親になった当初は親密性が低下するものの、親になって2~3年が経過するうちに安定した状態になる
◎ 夫から妻への親密性を低下させる要因は、妻が子どものいる生活にイライラしていること、夫の労働時間が長いこと、さらには妻が仕事をしていることが関連していた
◎ 妻から夫への親密性を低下させる要因は、夫の育児参加量が少ないことと子どもが育てにくいと思うこと、さらには自分が仕事をしていることだった
◎ 妻の頑固得点は母親になって2年後そして3年後になるにつれて高くなっていた。女性は母親になると毎日の育児に追われイライラすることも多くなるが、そうしたいらだちが夫に頑固になる原因かもしれない
◎ 夫に親密な感情を抱く妻は、子育てで嫌なことがあってもそれを我慢するのではなく、夫に積極的に話しているようだ。ところが夫の我慢得点は妻の得点よりも3期にわたって有意に高かった。これは夫が妻の機嫌をうかがい嫌なことがあっても我慢している傾向を示している
◎ 2人だけの恋人同士に近い親密性は親になると急激に下がるが、それに代わって夫婦としての絆とでもいうべき別の意味での親密性が夫婦の間に生まれ、それが一定の状態で安定して推移していくことが推察される。すなわち夫婦関係の質が親になると変化していくことが考えられる

 

この論文は産後クライシスのプロセスを客観的に説明しています。

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