日銀の金融緩和政策は、機能していない 異次元緩和後、銀行貸出はむしろ減少している

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日銀当座預金残高に対する貸出金残高の比率を見ると、これまでも、徐々に上昇してきていた。08年初めには2%程度であったが、13年初めには、10%程度の値になっていた。それが、異次元緩和の導入によって急上昇し、13年5月には17%になった。08年初めと比べると、8倍を超える上昇となっている。銀行のポートフォリオは異次元緩和政策によって大きく変化したが、それは、貸出が増えるという変化ではなく、日銀当座預金が増えるというものであり、銀行の収益性という観点から見ると、大いに問題があるものだ。

以上をまとめれば、次のようになる。日銀が国債を大量に買い上げるため、日銀当座預金が増え、マネタリーベースは増える。しかし、そこで止まってしまい、貸出が増えるという動きが生じていない。このため、マネーストックはほとんど増えていない。つまり、金融緩和政策は「空回り」しているわけである。

多くの人は、「金融緩和政策が実行されたために、日本経済が好転しつつある」と思っている。しかし、金融政策が実体経済に影響している事実は、まったくないと言ってよい。そもそも、金融政策が効果を発揮するための大前提である貸出の増加が、生じていないからだ。いくつかの経済指標が好転しているのは事実だが、それは経済の自律的な回復の結果と、大型補正予算の効果である。

金融緩和が機能しないことは予測されていた

以上の結果は、あらかじめ予測されていたことだ。日本では01年から量的緩和政策が実行されており、十分なデータが蓄積されている。そのデータは、量的緩和政策が実体経済に影響しないことを、はっきりと示している。具体的には次の通りだ。

01年3月から06年3月まで、「量的緩和政策」が実施された。この間に、マネタリーベースは、65.7兆円から109.2兆円と43.5兆円増えた(率では66.2%)。ところがマネーストック(M2)は、636.5兆円から706.1兆円へと69.6兆円増えたにすぎなかった(率では10.9%。なお、マネーストック統計は、08年3月以前は存在しないので、旧マネーサプライ統計から作成)。つまり、マネタリーベースの増加額の1.6倍ほど増えたにすぎなかったのだ。そして、この政策は経済成長にも物価動向にも影響を与えることができなかった。

こうなったのは、日銀当座預金が増えたにもかかわらず、貸出が減ったからである。つまり、信用創造とはまったく逆の現象が起きたのである。これは、ITバブル崩壊で、世界的に景気が悪化していたからだ。

量的緩和措置が06年に停止されたとき、日銀当座預金残高は顕著に減少した。しかし、この時期に、貸出は逆に増加した。アメリカで消費ブームが起こり、日本からの輸出が増加したからだ。これは、政策当局がマネーストックを政策的に動かし、それによって経済活動が変化するのではなく、逆に、実体経済が輸出の動向等によって決まり、マネーストックがそれに受動的に対応していることを示している。

10年10月、日銀は「包括的な緩和政策」を導入した。この際、バランスシート上に基金を創設し、国債などを購入することとした。このときは、当座預金増に伴い、貸出も増加した。ただしこれは、当座預金増による信用創造メカニズムというよりは、中国への輸出増などのために景気が回復し、企業の資金需要が強まったからだ。実際、当座預金の増加率に比べて、貸出の増加率ははるかに低い。10年12月から12年12月の間に、当座預金は120%増加したのに対して、貸出は5.3%しか増加しなかった。この結果、貸出金残高に対する当座預金残高の比率は顕著に上昇した。

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