日銀の金融緩和政策は、機能していない 異次元緩和後、銀行貸出はむしろ減少している

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10年10月から13年3月までの間に、マネタリーベースは98.8兆円から134.72兆円に、35.9兆円増えた(率では36.3%)。ところが、マネーストック(M2)は778.4兆円から834.1兆円へと55.7兆円増えたにすぎなかった(率では7.1%)。つまり、マネタリーベースの増加額の約1.5倍増えただけだった。この際も、金融緩和政策は経済成長や物価動向に影響を与えることができず、より強力な緩和が必要と批判されたのである。

異次元金融緩和政策の成績は、マネタリーベース増加額とマネーストック増加額の対比で見る限り、両者より悪い。過去を参照すれば、マネーストックがマネタリーベース増加額の1.5倍増えた程度では、経済に影響を与えることはできない。仮に6月以降のマネーストック増加額がこれまでより増えたとしても、経済に影響を与えることはできないだろう。

アメリカのQEでもマネーストック増えず

アメリカでも、金融危機後に、量的緩和が実施された。

08年11月には、FRB(連邦準備制度理事会)が第1弾(後に「QE1」と呼ばれる)を導入し、米国債を3000億ドル、MBS(住宅ローン担保証券)を1兆2500億ドル購入することとした(FRBが1年半の間に実際に購入した資産は、合計で1兆7000億ドルを超えた)。

FRBは、10年11月に、QE2として、6000億ドルの米国債を買い取ることを決定した。QE1、QE2で供給された資金は、合計で2.3兆ドル超に上る。QE2は国債を購入する施策であるため、国債利回りの低下が期待された。ところが実際は、国債利回りは上昇した。10年債の利回りは、QE2の実施前には2.5%程度まで低下していたが、QE2開始直後の11月から上昇を始め、11年2月には3.58%になった。

では、QE1やQE2は、アメリカのマネタリーベースやマネーストックに影響を与えただろうか?

マネタリーベースは顕著に増加した。08年8月まで8000億ドル台だったマネタリーベースは、QE1で09年1月には1.7兆ドルにまでなった。QE2の際には、11年1月まで2兆ドル台であったマネタリーベースが、6月以降は2.6兆ドル台に増加した。しかし、マネーストック(M2)は、マネタリーベースのような目立った増加は示していない。

週刊東洋経済2013年8月3日号

野口 悠紀雄 一橋大学名誉教授

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のぐち ゆきお / Yukio Noguchi

1940年、東京に生まれる。 1963年、東京大学工学部卒業。 1964年、大蔵省入省。 1972年、エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。 一橋大学教授、東京大学教授(先端経済工学研究センター長)、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを経て、一橋大学名誉教授。専門は日本経済論。『中国が世界を攪乱する』(東洋経済新報社 )、『書くことについて』(角川新書)、『リープフロッグ』逆転勝ちの経済学(文春新書)など著書多数。

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