中国経済はハードランディングを避けられるか 景気・経済観測(中国)

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ただし、成長率を抑えつつ、金融リスクの顕在化を抑えるという狭き道を中国政府は歩むことになる。それだけに、時として一部の理財商品、金融機関のデフォルトなどが起こる可能性は否定できない。また、不健全な金融商品や金融機関のデフォルト自体は、過剰投資の背後にあるモラルハザードを防ぐためには必要なことでもある。

中国政府、人民銀行にも必要なコミュニケーション政策

他方で、それがパニックを生み、危機を惹起することは回避しなければならない。たとえば、理財商品の規模は2013年6月末時点で9兆8500億元と、2012年のGDP対比19.0%に達しており、理財商品そのものへの不信感から、理財商品離れが一気に進めば、最終的に財政で処理できたとしても、経済の成長力を大きく損なうことになりかねない。金融機関のデフォルトについても、預金保険制度や破たん処理メカニズムが十分整備されていないだけに、パニック発生の懸念を完全には排除しにくい。

こうしたリスクを最小化すべく、改革の狙いやそれが及ぼす経済的影響の範囲などについて、中国政府は今まで以上に国民や市場に対して丁寧な説明を行うことが求められている。中国政府、人民銀行も、6月の銀行間取引市場におけるパニック的な金利高騰の経験から、コミュニケーション能力向上の必要性という教訓を以前にも増して実感したのではないだろうか。
 

伊藤 信悟 国際経済研究所主席研究員

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いとう・しんご

1970年生まれ。東京大学卒業。93年富士総合研究所入社、2001年から03年まで台湾経済研究院副研究員を兼務。みずほ総合研究所を経て18年に国際経済研究所入社。主要著書に『WTO加盟で中国経済が変わる』(共著、東洋経済新報社、2000年)、主要論文に「BRICsの成長持続の条件」(みずほ総合研究所『BRICs-持続的成長の可能性と課題-』東洋経済新報社、2006年)、「中国の経済大国化と中台関係の行方」(経済産業研究所『RIETI Discussion Paper Series』11-J-003、2011年1月)など。

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