定年後、夫婦は「共通の趣味」を持つべきか 収入減でも「ストレスフリーな老後」を送る

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発表会が近くなるにつれて、夫はカラオケボックスへ楽器を持って練習に通う頻度が高くなった。1度ボックスに付き添いで行ったときなどは、受付の人が“いつもの(アルトサックスの)練習ですね”、といった顔で、カラオケ用のマイクを渡さず、すぐに部屋を案内してくれたぐらい、夫の顔は知られていた。平日の日中、カラオケボックスは「シニアのたまり場」になっており、「歌って、しゃべって、時には食べて」と、エネルギー発散の場となっていることも、帰り道に聞かされたものだ。

さて、いよいよ発表会の当日。私は夫と同じ初級クラスに通うおじさまたちや若者にごあいさつさせていただいた。出番を待っている間、夫も含め彼らは曲や練習方法について熱心に情報交換していた。さあ、本番だ。実を言うと、完全に「幼稚園のお遊戯会の保護者の気持ち」だった。

この種の発表会は最後まで参観者にいてもらうために、発表順は初心者から徐々に上級者へと移り、聴きごたえのある内容となっていく。もちろん、夫はかなり初めのほうだ。肝心の演奏はというと、上手とはいえないものだった。だが本人がとても楽しくノッていたので、会場は大いに盛り上がった。

その後、「初級クラスメンバー」での演奏も無事こなし、そのあとは夫婦そろって上級者の演奏を一緒に聴いた。高校時代からやっているという「20年選手」の若者とは格が違うことは、ど素人の私にもよくわかった。しかしいずれも音楽を、そしてアルトサックスをとても楽しんでいる。それが好きな人ばかりだった。「こういう世界もいいなあ」と感じた。

この「アルトサックス参観」、2回目の公演の時は、「行く!」と即答した。実はライブハウスでセミプロの方々がバックの伴奏を固めてくださっていたこともあり、本人たちも聴く側も、グンと盛り上がった。70歳近い方もおしゃれをして少年のようにうれしそうに演奏していた。なかなか格好よかった。「なるほど、こういう世界が好きなのか」。結婚してそれなりに夫の好みは知っていたつもりであったが、やはり実際に行ってみないとわからないものなのだ。

「頭ごなしに誘いを断る」のだけは、やめよう

一方、夫に付き合ってみて、駄目だったこともある。夫は「京都検定1級」を持っている。自他共に認める「京都通」ということなのだが、その仲間の人たちとの会合に付き合わされたことがある。この場合は、私の知識レベルが夫や関係者と違い過ぎて、ほとんど会話についていけなかった。話を聞いていて疲れてしまったので、私は「今回限りで」と申し上げ、それ以降、この関係の会合にはまったく付き合っていない。

定年を迎える方に限らないかもしれないが、もし「相方」から趣味の話で誘われたら、1度は付き合ってみたほうがいいと思う。誘う側は、実は相当緊張しながら声をかけているはずだ。頭ごなしに断ったら、「2度目の誘い」はない。1度は付き合ってみよう。行って体験してみて、自分に合わなければ「それまで」でいいのだ。たとえ1回で終わっても、話を聞くだけよりは互いを理解するには大いにプラスになる。ささいなことかもしれないが、定年を迎えた夫婦が円満に生活するうえで、ぜひ参考にしていただきたいと思う。

大江 加代 確定拠出年金アナリスト

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おおえ かよ / Kayo Oe

大手証券会社に22年勤務、サラリーマンの資産形成にかかわる仕事に一貫して従事。退社後、夫の経済コラムニストである大江英樹氏(株式会社 オフィス・リベルタス 代表)を妻として支える一方、確定拠出年金の専門家としてNPO確定拠出年金教育協会 理事、企業年金連合会 調査役として活動。野菜ソムリエの資格も持つ。

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