ジャパネット髙田明「私が新入社員だった頃」

バスから景色を眺めることも、勉強です

そういう生活の中で特に印象に残っているのは、東欧で感じた国の貧富の格差です。阪村の社長は若い頃に外国で苦労されたことがあって、海外駐在は一流ホテルに泊まって、1日に1万円使っていいっていう方針だったんですよ。私の月給が5万円いかないときです。ポーランドに行ったときも、ソ連のフルシチョフが会談したという格式のある一流ホテルに泊まらせていただきましたから。最初はわからないんです。

ところが、外を歩いていたら若い女の子が50人ぐらい列を作っているから、なんですかって聞いたら、ケーキは配給制だって言うんです。卵を食べたら変な臭いがするんですね。どうしてですかって聞いたら、それはB級品だって言うんです。A級品は外貨を稼ぐために輸出されて、国民が食べるのはB級品とかC級品なんです。だから自由主義圏にあこがれがあるんだって聞きました。共産圏の方はそんなに貧しい暮らしをしているんだと実感しました。

もうひとつよく覚えているのは、阪村社長とイタリアに行ったときのことです。社長ご夫妻のお供をして、バスでイタリアに行ったんです。そのとき、私がバスの中で寝ていたことがあったんですよ。そしたら、後から社長が「髙田君、バスの中から景色を眺めることも、人生の勉強だよ」っておっしゃったんですよ。それをよく覚えていて、20年ぐらい経ってから、社員に同じことを言うようになりました。

言われたときにはわからなかったんですよ。ヨーロッパでいろんな経験をさせてもらいましたけど、見たことや聞いたことは、そのときは意味はわからなくても、意識して見聞きしていれば、後になって、いろんなこととつながってくることがあるんですね。見ていなかったらそれで終わりです。

旅行ひとつでも、そこから何かを学べると思って旅行している人と、ぼんやり旅している人では、生き方が全然違ってくると思います。そういうことを積み重ねていくと、人生はずいぶん変わってくるんですよ。

ポーランドではクラクフという町にも行きましたけれど、そこはアウシュビッツのすぐ近くです。でも、当時は興味がなかったもんだから行っていないんですよ。あの大虐殺があったアウシュビッツの近くにいながら、何も見ずに何も聞かなかったんです。

後になって、それに興味を持てなかった自分に気がついて、なんでも見たり聞いたりして勉強する習慣を身に付けていれば、人間はいくらでも成長できるんだということを学びました。だから、そのときのことはずっと忘れられなかったんですよ。

そしたら、2015年、仕事でポーランドに行く機会がありましたので、アウシュビッツまで足を延ばして、収容所跡を見てきました。

翻訳会社の「起業」では失敗

入社して2年目に8カ月間も海外駐在の経験をさせていただき、社長にもたいへんかわいがっていただいた会社でしたが、帰国後、1年もしないうちに退職してしまいました。不義理というか恩知らずというか、まだまだ子どもだったんですね。

会社を辞めるってなったとき、社長室に呼ばれました。怒られると思って入って行ったんですけど、社長は「髙田君、辞めるんだってな。君がいつかこの阪村で働いたことを、本当に良かったって思うときがくればそれでいい」って言ってくださいました。

そのときの言葉と、「窓の景色も勉強だよ」と言われた言葉は、人生訓だと思って忘れたことはありません。

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