「こども保険」と「教育国債」は、何が違うのか どちらを優先し、どう費用を負担するのか

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特に、自民党内での教育財源確保に関する議論では「教育国債」という案が出ており、「こども保険」にはその対案という意味合いがある。「教育国債」は大学などの高等教育の無償化に必要な財源を国債発行で賄うというものである。これまでも、教育予算を含む経常的経費のために国債は発行されており、これは赤字国債と呼ばれている。

赤字国債を発行して財源を賄えば済む話なのだが、2020年度の財政健全化目標(国と地方の基礎的財政収支黒字化)達成のためには、赤字国債のみならず建設国債も含めて国債発行の抑制が求められているところである。「教育国債」は、いわば赤字国債の一部について教育予算として使途を特定するとともに、財政健全化を目標とした国債発行抑制の枠から外したいという下心が透けて見える。

ちなみに文部科学省は、幼児教育から大学までの授業料無償化に必要な年間の追加予算額を、幼児教育7000億円、私立小中学校分数百億円、高校3000億円、大学3.1兆円と試算している。

「教育無償化」は利害が錯綜し予算拡大志向

教育無償化は自民党が長年議論しており、今に始まった案ではない。しかし、必要な財源額が大きいことや、給付型奨学金の導入など文教予算で他に優先する事項があったことなどから、これまで実施を前提とした議論は深まってはいなかった。しかも、教育無償化といっても、幼児教育を先に無償化するのか、高等教育を先にするのか、自民党内やその背後にいる圧力団体も含めて利害は錯綜しており、同床異夢の状態である。

かつ、不思議なことに、同じ文教予算でも、教職員定数の議論では、定年等の減員により予算が減る分を別の形で増員して予算を振り向ける、といった予算組み替えの発想があるのだが、教育無償化に関しては予算を組み替えて全体としては予算が増えないようにするという発想は皆無に等しく、財源を新たに増やしてそれを投入する、という予算拡大志向が強い。

「教育国債」の賛同者は、国債で賄って教育に費やしても、子どもたちが大人になって稼ぐようになったら税金を払うので、それを財源に国債を償還できる、と聞こえのよい説明をする。しかし、「教育国債」は、いわば子ども世代が世代全体で負う有利子奨学金のようなものである。

今ある有利子奨学金は、在学中にはもらうだけで直接おカネを支払う負担はない。しかし、卒業後には稼ぎに応じて利子をつけて借りた奨学金の返済をすることになる。日本学生支援機構が公表する有利子奨学金の返済状況を見ても、延滞したり返済免除されたりする人が看過できない比率で存在する。そのうえに「教育国債」を発行すれば、まるで「第2の有利子奨学金」の返済負担までも、今の子どもたちの将来に負わせる羽目になる。

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