しかも、「教育国債」で賄ったおカネをまずは高等教育の無償化に充てようとする案があるが、今の大学の実情を考えると問題が多い。日本にある私立大学の約45%は、学部単位でなく大学単位で定員割れを起こしている。さらに、私立大学の30%弱は、学生の就職率が80%以下(全国平均は86.6%)である(週刊東洋経済臨時増刊『本当に強い大学2016』に基づく)。
それだけ大学が過剰だともいえ、このままだと、高等教育の無償化は大学経営の救済策と誤解されかねない。高等教育を無償化する前に、大学が学生の素質を伸ばす教育を行える改革に本腰を入れて取り組むべきだろう。
「こども保険」はなぜ「増税」でなく「保険」なのか
他方、「こども保険」はどうか。「こども保険」に対する最大の批判は、そもそも「保険」といえるのか、ということである。小委員会の提言では、子どもが必要な保育・教育等を受けられないリスクを社会全体で支えるための保険と位置づけている。しかし、子どもがいない世帯やすでに子どもを育て終えた世帯にとっては、保険料だけ負担させられても確実に給付がないという意味で保険とはいえない、という批判がある。
ただ、それを言い出せば、自らが要介護状態になるリスクに備えた介護保険でも、原則として要介護認定は受けられず自らは介護サービス給付を受けない40~64歳の第2号被保険者も保険料を払わされている事実がある。
確かに、保険料という形でなく所得税として負担を求めるという考え方なら、この保険か否かの議論は避けられる。しかし、増税よりは毎年の社会保険料の引き上げのほうを是認する国民が多いということに鑑みた政治的な判断があるのかもしれない。現にこの十年来、所得税はほとんど増税していないが、毎年のように保険料率は平均して0.2%ほど引き上げられ続けている。保険料なら少子化対策として使途が限定される。
保険料として課すとしても、年金保険料だと原則60歳以上の高齢者には負担を求めないことになり、世代間格差の是正につながらないとの見方もある。そこで、高齢者も負担している医療保険(国民健康保険や後期高齢者医療制度)の保険料に上乗せすればよいとのアイデアも出てこよう。ただ、財政制度上厄介なのは、年金保険料は国の会計に入ってくるが、医療保険料だと地方自治体の会計に入る。そこから国が全国レベルで給付するとなると、実務的に面倒になる。
小委員会が提示した最初の導入案は、厚生年金保険料に0.2%上乗せするというものだ。子育て支援といえども負担増であることは変わらない。その負担増は酷だと見る向きもある。しかし、本人負担の雇用保険料率は、2015年度から2017年度にかけて、0.5%から0.3%へと、0.2%引き下げられている。もし「こども保険」で保険料を上乗せするとしても、雇用保険料率の引き下げが相殺される程度のものといえる。ちなみに、こども保険の上乗せ保険料(本人負担分)は、年収400万円の人は月240円程度である。
「こども保険」提案は、こうした意味で、わが国の社会保障の姿や負担のあり方をどうするか、あらためて考えさせるものといえるだろう。
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