「貯金できないと死ぬ」世界は本当に健全か 税金は「みんなの貯金」と捉えよう

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井手:僕は日本を「勤労国家」と呼んでいます。なぜ就労するかといえば、自己実現もありますが、貯蓄しないと生きていけないからです。中間層がやせ細って困っているのは貯金できないからです。生活のニーズを貯金で満たす社会は、貯金ができなくなった瞬間に不安になり、みんながおびえて萎縮する社会です。いまの社会で貯金できないというのは死ねと言うのに等しい。だから奥田さんが言うように、経済をさまざまな価値のひとつにしたいと思ったら、この貯金をしないと生きていけない社会を変えないといけない。

ただ日本人の勤労と倹約という哲学には逆らえない。だったら、社会に貯金をすればいい。税金というのは社会への貯金なんです。自分の貯金は減る。その代わり自分が病気になっても、ケガをしても、失業しても大丈夫な貯金にかわる。この前提にあるのは政府への信頼。2年後に消費税の再増税が待っています。僕は増税すべきだと思います。でも、今度こそ、増税分を借金減らしではなく、国民の暮らしに使ってほしい。そうすれば政府への不信感も和らぐでしょう。

奥田:消費税でいくか、その他の税でいくかは、議論があるところですが、いずれにせよ増税は必要だと思いますし、それが「生活保障」に投入されることが必要だと思います。再分配は国家最大の役目ですから、おっしゃるとおり「信頼できる政府か」が問われます。

一方で、税金で最低限度の生活を保障するだけで本当に人々は安心するのかも問うべきでしょう。ここから先は、政府に任せておけない部分になります。つまり、それは「意味付けの問題」だからです。

「生きる手段」の次は「生きる意味」が課題

奥田 知志(おくだ ともし)/1963年滋賀県生まれ。NPO法人「抱樸」理事長。日本バプテスト連盟・東八幡キリスト教会牧師。関西学院大学神学部大学院修士課程修了。1982年大学入学と同時に日本最大の寄場(日雇い労働者の街)に出合う。以来、生活困窮者・ホームレス支援に携わる。「NPO法人北九州ホームレス支援機構」を設立。九州大学博士後期課程単位取得退学。公益財団法人共生地域創造財団代表理事。一般社団法人生活困窮者自立支援全国ネットワーク共同代表。著書に『「助けて」と言える国へ』(集英社)など、NHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」「こころの時代」出演(写真提供:奥田 知志)

奥田:生きる手段としてのベースの部分は先生がおっしゃったような財政をつくることで実現できる。ただ、それは明日生きるか死ぬかを心配しなくてもいいということであって、必ずしも生きる意味を与えてくれるものではない。だからこそ、あなたはどう生きるのか、何のために生きるのか、何のために働くのかという議論が同時に大事になってきます。私は、宗教家でもありますので、……こう見えても宗教家でもありますので(笑)、だから、その点は気になります。

ただ、これは「貧しくても天国に行けるから大丈夫」などという宗教のアヘン性の問題ではありません。当然、生活のベースの部分は、憲法に規定される国家の責務ですから、政府がキチンとすべきです。

財政が建物の「1階」部分だとすると、その上にどんな「2階」が乗るのかが、われわれNPOや宗教者、市民社会、個人の課題だと思います。この意味付け部分には、国家が口を出してはいけません。ただし、「1階」が脆弱だと「2階」の話は出てこないというのが、失われた30年で証明された事柄です。

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