「貯金できないと死ぬ」世界は本当に健全か 税金は「みんなの貯金」と捉えよう

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井手:今は悪い意味で利害関係になってしまっているんです。もらっていない人から見れば、「何であいつはもらっているんだ」という世界です。そういうベーシックな部分でけんかを始めると社会として本当につらい。貧しい人や体の弱い人たちが、既得権者扱いで袋だたきにされてしまう。明らかに弱者なのに。

財政には社会の哲学が如実に現れます。だから僕はそこをつくり替えていくことに非常に意味があると思っている。単なる数字合わせではなくて、どういう社会をつくりたいかという哲学の問題です。だからこそベーシックな部分はきちんとやらないといけない。

僕は、最後の最後は、敗者が勝者に対して惜しみない拍手を送れる社会になるべきだと思う。格差のない社会ではなく、格差を受け入れられる社会に。だからこそ、ベーシックな部分をすべての人に保障し、誰もが競争の輪に加われるようにすることが欠かせない。生まれたときに勝者と敗者が決まる、そんな残酷ないまの社会を終わらせないといけない。

「勝者」という概念を多面化しないといけない

井手 英策(いで えいさく)/1972年福岡県生まれ。2000年に東京大学大学院経済学研究科博士課程を単位取得退学し、日本銀行金融研究所に勤務。その後、横浜国立大学などを経て、慶應義塾大学経済学部教授に。専門は財政社会学、財政金融史。著書の『経済の時代の終焉』(岩波書店)で2015年大佛次郎論壇賞受賞。『18歳からの格差論』(東洋経済新報社)は、自民党、民進党を問わず永田町の政治家の必読書として話題をさらっている。ほか、著書に『分断社会を終わらせる』(筑摩書房)『分断社会ニッポン』(朝日新聞出版)『財政から読みとく日本社会』(岩波書店)など(撮影:石戸 晋)

奥田:その「勝者」という概念をもっと多面化しないといけないと思います。失われた30年について、安定就労が失われたとか、中間層が崩壊したとか言われていますが、同時に「どう生きるのかという議論」そのものが失われたと思います。そして、生きるうえで何が幸福であるかという問いを嘲笑する時代になった。

この部分における「戦後レジューム」の崩壊は、よくも悪くも生き方の変更、価値の変更へと私たちを導くのではないかという「淡い期待(笑)」があります。「貧すりゃ鈍する」ということも、「貧すりゃ考える」「貧すりゃ出会う」ということになればいい。

井手さんの言う「みんなの利益」ということを目指すと、全体的には「薄く広く」ということになるのではないか、これは素人のイメージに過ぎませんが。今までならば、「薄くでは嫌」で終わっていたが、それを超える価値が生まれるかもしれない。そして「最後に敗者が勝者に惜しみない拍手をする」というのは、おカネの問題、経済の問題だけでは成立しないと思います。ベースの確保と同時に大きな価値転換、人と人とのつながり方の転換が起こらなければいけないと思います。

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