まずはこの音楽祭の中核をなす「ワーグナー・シリーズ」から『ニーベルングの指輪』第3日「神々の黄昏」公演は外せない。国内外から選り抜きの歌手をそろえたうえに演奏はマレク・ヤノフスキ指揮NHK交響楽団。人気公演だけに、運よくチケットが手に入った幸せな方はワーグナーの神髄に触れられること間違いなし。さらにはシューベルトの「ミサ曲第6番」もお薦めだ。
こちらは31歳でこの世を去った夭逝(ようせい)の天才シューベルトが、生涯最後の年に力を振り絞って完成させた知られざる傑作だ。その無垢な美しさは驚くばかり。そして、バッハ好きとして聴き逃せないのが、毎年恒例「東博でバッハ」公演。法隆寺宝物館エントランスホールや平成館ラウンジで聴くバッハの音楽のなんと厳かなことだろう。
「ラ・フォル・ジュルネ2017」も負けていない。前述のとおり今年のテーマは「ラ・ダンス〜舞曲の祭典」。“太古の昔より、人が踊るところにはいつも音楽が奏でられていた”という心躍るキャッチフレーズのもと、日本クラシック史上最大級の舞曲の祭典が展開される。
その内訳には、タンゴやフラメンコから和太鼓やジャズに至るまでの多彩で興味深いプログラムが目白押し。そして毎年のことながら、ルネサンスから近現代に至るクラシック600年の歴史の中から選び抜かれた名曲の数々は圧倒的。“目から鱗(うろこ)”ならぬ“耳から鱗”の3日間となりそうだ。
3歳児から入れるコンサートや、ゼロ歳からのコンサートが設定されているのもこの音楽祭の大きな特徴。親子連れで1日楽しめるテーマパークのイメージに最も近い音楽祭がここにある。
「何を聴く」という一般的なクラシックの楽しみ方とは別に、「そこにあるものを聴く」という楽しみ方もあることを教えてくれたのが「ラ・フォル・ジュルネ」だ。それこそまさにルネ・マルタン曰(いわ)くの「美術館のように巡るコンサート」なのだろう。無料コンサートのほかに、チケットの半券が1枚あれば入場可能なコンサートもたくさんあり、音楽祭を一日中楽しむことも可能となる。そのためにもまずはチケットを1枚ゲットすること。それが「ラ・フォル・ジュルネ」を楽しむ入り口だ。
2つの音楽祭が成し遂げたこととは?
一般的なクラシックのコンサートには定員以上に人が来ることはまずありえない。ところが「東京・春・音楽祭」と「ラ・フォル・ジュルネ」には、チケットの数をはるかに上回る聴衆が集まる。さらにはクラシック初心者の参加率がとても高いことも共通点といえるだろう。
似ているようで似ていない2つの音楽祭が成し遂げたことは、クラシック界が長年思い描いていた“クラシックの一般大衆化”の実現だ。2つの魅力的な音楽祭をスタートさせた2005年という年は、クラシック界にとってのエポックメーキングな年として長く記憶されるに違いない。
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