日本人はなぜ「桜」をこんなにも愛するのか 「散り際」に美を感じるのは本来ではない?
心躍る春がやってきました。これまでたくさんの国を見てきましたが、日本ほど豊かな四季に恵まれたところはないと思います。雪月花に花鳥風月。天然の気候に動植物までが四季を装って心を華やがせます。
それを感じ取る日本人の心も実に豊か。風物を愛(め)でるだけの遊覧であっても、「桜狩り」「蛍狩り」「紅葉狩り」などと称する言葉づかいに、自然への感受性の高さを感じます。
春を告げる花といえば何でしょう? パリに春を知らせる花はミモザ(mimosa)です。春とはいえまだ冷たい2月から3月ごろ、黄色の小さな花の群れがマルシェや花屋さんに現れ、季節の変わり目を感じる心を湧きたてます。冬を越え躍動する春への胸騒ぎでしょうか。
3月8日は「国際女性デー」でした。国連は1975年以降この日を国際女性デーと定め、女性の完全で平等な社会参加の環境整備を世界各国に呼びかけています。国際女性デーは“ミモザの日”とも呼ばれます。男性から女性へ、あるいは女性どうしでミモザを贈る習慣が南欧ではあり、街中がミモザであふれます。春こそ女性の季節であることを体が知らせ、人々は胸騒ぎの春の訪れを大喜びしているのです。ほとんどの動物がもつ発情期の熾火(おきび)が、人間の女性に残っているのを感じる生命の季節です。
「花」といえば「桜」
日本で春を知らせる花は梅でしょうか、それとも桜? フランスのミモザのように季節に先駆ける花となれば梅です。「花の姉」とも呼ばれて時を駆けるだけでなく、寒さを切り裂きにおい立つ香は凛然たるもの。唐代の人が牡丹に夢中となるまで、もっとも中国で人気があった花でもありました。
奈良時代に編まれた『万葉集』の中で詠まれた梅は110首であるのに対して、桜は43首です。しかし、平安時代になると日本人の人気は桜一辺倒となって、勅撰八代集の初めである『古今和歌集』では春の部133首のうち桜が74首で梅は26首、最後の『新古今和歌集』となると春174首のうち桜が135首で梅は17首という結果となります。こうして、花と桜は意味を同じくするようになりました。
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