ロンドンテロで鮮明化した「ローテク」の脅威 ベルリンやニースのテロと酷似している

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2005年のロンドンテロの教訓から、捜査当局は慎重に事を進めた。議事堂内に爆発物が隠されている可能性があり、実行犯が一人かどうかすぐには確認できなかったこともあって、議事堂内で投票中だった議員らは事件発生から数時間、外に出ないように指示された。地下鉄の最寄り駅ウェストミンスターは閉鎖され、スコットランド自治議会、ウェールズ議会が議論を中止。ウェストミンスターから近いウォータールーにある大観覧車「ロンドン・アイ」も運転を停止した。

午後9時少し前、官邸の前でメイ首相は「暴力で私たちの価値観を破壊しようとする試みは、失敗に終わるとはっきり宣言する」と述べた。23日、通常通りに議会は運営されるという。

世界各地からロンドンテロの犠牲者を悼むメッセージが寄せられた。パリのエッフェル塔が哀悼の意を表して明かりを消した。

「新しいタイプのテロ」

今回のテロの犯行理由など詳細はまだ明らかになっていないが、最近の欧州で発生したテロに似ている、との指摘が出ている。

実行犯が使ったのは車とナイフ。誰もが簡単に入手できるもので、拳銃でもなければ爆弾でもない。

ちょうど1年前の3月22日、ブリュッセルでテロ事件が発生し、32人が死亡した。イスラム過激集団「イスラム国(IS)」の指令の下に念入りに仕組まれたテロで、実行犯は自爆テロで命を散らせた。

しかし、今回のテロは昨年末、ベルリンで発生したテロや昨年7月のフランス・ニースのテロを思い起こさせる。どちらの場合も、特にISからの指令があったわけではなく、いわゆる「一匹狼の攻撃者(ローン・ウルフ・アタッカー)」としての実行犯がテロを実行。市民が多く集まる場所にトラックで突っ込んでいった。 

「これが新しい種類のテロだ」と英インディペンデント紙のショーン・オグレディ氏は書いている(22日付記事)。特徴は「ローテクで、自殺あるいは半自殺的結果となること」。その教訓は「自動車にアクセスできる人なら、だれでもテロに使える。これを止める手段はない」。もう詳細な計画や複雑な機材は「必要ない」。

パリテロ(2015年11月13日)やブリュッセルテロ(2016年3月22日)のように、ISが背後にあって入念な計画の下で実行されるタイプのテロには、捜査当局はテロリスト予備軍を監視対象に入れ、情報収集に力を入れることで発生を防ごうとする。しかし、ベルリンテロやニーステロのような「新しいタイプのテロ」では、監視対象に入らないような人物が突発的に車や手持ちの機材を使って犯行に及ぶ。確かに何らかの防止措置を取ることは非常に困難になりそうだ。

2008年、元米CIA工作員ロバート・ベイヤー氏が「カー・ボム(Car Bomb)」というドキュメンタリー映画を作っている。この映画が英国で上映されたとき、ベイヤー氏は「今世紀最大の脅威は核兵器ではない。車を使った爆弾だ」と述べている。まさにそれがベルリン、ニース、ロンドンで現実となってきた。

小林 恭子 在英ジャーナリスト

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こばやし・ぎんこ / Ginko Kobayashi

成城大学文芸学部芸術学科(映画専攻)を卒業後、アメリカの投資銀行ファースト・ボストン(現クレディ・スイス)勤務を経て、読売新聞の英字日刊紙デイリー・ヨミウリ紙(現ジャパン・ニューズ紙)の記者となる。2002年、渡英。英国のメディアをジャーナリズムの観点からウォッチングするブログ「英国メディア・ウオッチ」を運営しながら、業界紙、雑誌などにメディア記事を執筆。著書に『英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱』。

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