1963年生まれの福田美蘭は早くから頭角を現し、絵画を中心に多彩な作品を発表してきた。東京都美術館の学芸員、河合晴生さんは魅力をこう語る。
「既成概念をあっさりと突破して、さまざまな物の見方を提案しています。ルールの中で生きている普通の人間にとっては、目からウロコ。“もしも”を見せてくれる。それを成り立たせているのは、彼女の感受性の豊かさ、発想の柔軟さ、そして技術力の高さです」
レオナルド風、安井風など、自在に描き分ける技量と、ユーモアあふれるアイデアから、数々の話題作が生まれた。今回は1990年代以降の代表作を中心に、この展覧会のために制作された新作20点を含む、約70点が展示されている。
父への感謝
新作のひとつが『アカンサス』だ。アカンサスとは、ここに描かれている植物で、古代ギリシャ、ローマ建築では柱の文様に使われた。彼女が学んだ東京芸術大学の記章でもある。写真の女の子は11歳の彼女。父親に連れられて上野にモナ・リザ展を見にきたときに撮影したものだという。父親は著名なグラフィックデザイナーの福田繁雄で、2009年に亡くなった。
「上野の東京都美術館で個展をすることになったとき、写真を探してみる、といって制作したのがこの作品です。父親には感謝しているし、アカンサスが象徴する芸大も自分を育ててくれた。そういう物語性が素直に出ています」
と河合さん。写真を張ったように見える部分もしっかり手で描いている。表面の黄緑色のアカンサスはウィリアム・モリスのテキスタイルのプリント生地が使われている。
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