環境先進企業の挑戦<2> リコー−−取引先を巻き込め! 全包囲でCO2を削減
取引部品メーカーに排出量計算ソフト導入
今年まで4年連続で、「世界で最も持続可能な100社」に選ばれるなど、リコーは日本を代表する環境先進企業として知られている。その活動の特筆すべき点は、自社が排出する分だけでなく、川上の材料メーカーや川下のユーザーが排出する温暖化ガスに対しても、責任を持とうとする姿勢だ。
複写機が作られ、廃棄されるまでの一連の過程で、リコーが直接に排出するCO2は実はごく一部。製品ライフサイクル全体の552万トンの中で、わずか11%程度だ。圧倒的に多いのは使用過程で使われる紙、電力によるもの(全体の78%)だが、材料、部品などを供給する取引先が排出するCO2排出量も11%とリコー並みだ。リコーでは、こうした関係先を含めた全体での環境負荷に関し、2010年度に00年度比20%削減する目標を掲げている。
今年から目標達成に向けた試みの一つが新たに始まっている。CO2排出量計算ソフト「リコレット」の取引先への導入だ。製品ごと、工程ごとに材料、電気使用量、使用している設備の種類や稼働時間を入力することで、対象製品1個当たりのCO2排出量を算出できる。削減の前提として、まずは現状の排出量を把握してもらおうという狙いだ。
他社に先んじて、同システムを試験的に導入したのが、リコーだけでなくキヤノン、富士ゼロックス、コニカミノルタとも取引がある大手部品メーカーのシンジーテックだ。同社では、複写機用部品の一つ、帯電ロールのCO2排出量を算出。その結果、原料の次に排出量が多いのは、プレス工程で出るゴムの切れ端など廃棄物の処理によるものであることがわかった。
同社では、無駄になる素材を減らすことでCO2削減だけでなく、生産効率改善にもつなげようとしている。「ほかの取引先も『CO2排出量を教えてくれ』と言ってくるが、算出のためのツールまで提供してくれるのはリコーだけだ」(塩澤隆・環境管理部長)。
残る課題は、427・8万トンもの排出がある使用時のCO2をどのように削減するか。複写機が製造され廃棄されるまでのライフサイクルの中で、使用者に帰せられるべきものは実に78%(うち紙が69%)と、大半を占める。リコーでは待機中の消耗電力を低減する省エネモードをほとんどの複写機に搭載しているが、起動に余分な時間がかかることになるため、実際に使っている客は7~8%しかいないのが現状だ。
紙についてはさらに難しい。事務機器業界は消耗品の紙とインクで稼ぐビジネスモデルであるため、リコーにとって、「自ら収益源を絞ることになる紙の使用量削減は悩ましい問題だ」(阿部裕行・環境経営推進室副室長)。現在はステッカーなどを配り、両面コピーの推奨などを呼びかけるが、抜本的解決策は見えていない。
桜井正光会長の下10年以上にわたり「環境に良いことは経営にも良い」という「環境経営」の理念を掲げてきたリコーだが、最後には、どうしても紙を大量に用いる環境に優しくない機械を製造している矛盾とぶつかってしまう。この矛盾を解決するような新しい技術的な飛躍をできるかどうか。これが、事務機メーカーにとって共通かつ最大の課題といえるだろう。
(週刊東洋経済編集部)
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