トランプ劇場に踊らされ見失いがちな「本質」 オーストラリアとの首脳会談は何だったのか

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この展開は、オーストラリア側にとっては目を疑うものだった。なぜなら、ホワイトハウス側は当初、オーストラリアとの合意は尊重するとコメントしていたうえ、ターンブル首相は会見で「トランプ氏が合意を順守することに感謝している」と述べ、「建設的な会談だった。アメリカとオーストラリアの同盟は強く深いことを確認し合い、さらに関係を強めていく努力をすることを約束した」と、会談が順調に終わったかのようなコメントをしていたのだ。

早速、ターンブル首相は、電話が一方的に切られたとの報道について「正しくない」と否定し、「私が知るかぎり合意はいまだ継続中であり、電話会談が後味悪く終わったという報道は誤りだ」と火消しに走った。さらに「良き友人同士がするように率直な会話をした」と従来の見解を変えない姿勢を示した。

予測不可能な展開に追われるメディア

いったい、真実はどこに――? オーストラリア側の報道をあさると、記者たちも混乱を極めていた。新聞各紙は、時系列でこの矛盾したやり取りを羅列するなどして、ひとまず混迷した事態を整理してみようと試み、さらに、オーストラリア放送協会(ABC)の記者はツイッターで「#(ハッシュタグ)混乱」と打ち、刻々と変わる情勢の混乱ぶりをつぶやくなど、真相探しが始まっていた。

これまでの外交の常識を覆すかのような、”トランプ流”の予測不可能な展開に追われるメディア。オーストラリアの記者の友人は「これほど外交が予測しづらく、つかみづらいのは初めてだ」と困惑していた。これは、今回のオーストラリアの事案だけではない。あらゆる外交事案で世界各国のメディアが日々、目まぐるしく変遷する事態をつかみ取るのに苦労をしている。

だが、ここで立ち止まって考えなければいけないのは、トランプ大統領の外交をお祭り騒ぎかのように表層だけを報じることに注力すると、本質を見失ってしまうという点だ。確かに、トランプ大統領就任以来、外交を始めとする一連の動きは日本でも多く報じられるようになり、それによりこれまで外交に興味のなかった層に訴えかけることが出来るという点では非常に意義深い。しかし、今回の本質は、島国の収容施設に留め置かれている難民希望者の処遇について、である。

このトランプ騒動の最中にも、当初の「合意」が報じられて以来、アメリカへの移送を待ちわびていた難民たちが、かたずをのんで事態の変遷を見守っていた。難民を支援するオーストラリアの団体の関係者によると、彼らはこの一連の報道の中で、もはや何を信じていいのかわからず、政策がどこへ向かうかの情報を十分に得るすべもなく、希望を打ち砕かれている状態だという。トランプ劇場ではなく、本質を。今、冷静に立ち止まってみたい。

海野 麻実 記者、映像ディレクター

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うんの あさみ / Asami Unno

東京都出身。2003年慶應義塾大学卒、国際ジャーナリズム専攻。”ニュースの国際流通の規定要因分析”等を手掛ける。卒業後、民放テレビ局入社。報道局社会部記者を経たのち、報道情報番組などでディレクターを務める。福島第一原発作業員を長期取材した、FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品『1F作業員~福島第一原発を追った900日』を制作。退社後は、東洋経済オンラインやYahoo!Japan、Forbesなどの他、NHK Worldなど複数の媒体で、執筆、動画制作を行う。取材テーマは、主に国際情勢を中心に、難民・移民政策、テロ対策、民族・宗教問題、エネルギー関連など。現在は東南アジアを拠点に海外でルポ取材を続け、撮影、編集まで手掛ける。取材や旅行で訪れた国はヨーロッパ、中東、アフリカ、南米など約40カ国。

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