図のデータが示しているのは、日銀の意図に反して、ポートフォリオ・リバランス効果がほとんど生じていないということである。
「リスク性資産」としては、株式、REIT、外国証券など、さまざまなものが考えられる。しかし、銀行にとっての最大の制約は、自己資本比率の維持だ。リスク性資産の保有を増やすことは、この制約に反する。したがって、国債に代わりうる資産は貸出なのだが、企業の資金需要がないために、急ピッチで進む日銀の国債買い上げに、貸出増がついていけないのである。
金融緩和効果がないのは分かっていたこと
実際のデータは、次のとおりだ。
国内銀行の貸出金平均残高の推移を見ると、この数年ほぼ不変である。詳しく見ると若干の変動はあるが、対前月比で0.5%程度以内の変化でしかない。額で言えば、13年5月までの1年間の月間増加額平均は、9400億円程度だ。
前述のように、マネーストック増加額がマネタリーベース増加額と等しくなるには、マネーストックは現在の2倍程度の率で増加しなければならない。しかし、それは至難の業だ。
金融庁が行政指導で銀行の貸出増を指導しているようである。6月におけるマネーストックの増加は、そうした努力の成果なのかもしれない。しかし、市場の動向に逆らっての行政指導には、自ずから限度がある。
マネタリーベースを増やしても、借り入れ需要がない経済では、マネーストックは増えない。つまり、「糸で引くことはできても、押すことはできない」。このことは、日本における量的緩和政策の結果として、はっきり分かっていたことだ。また、アメリカのQE(量的緩和策)の経験でも分かっていた。そのことは、本連載の第4回(12年12月8日号)で指摘したとおりである。そこで述べたとおりのことが起こっているわけだ。
異次元金融緩和の実際の効果は、皮肉にも、金利を上昇させたことだ。これも、日銀の意図には反することだろう。しかし、インフレ率2%が実現した世界で名目金利が2%以下であるはずはないから、異次元緩和政策の直接の結果だ。言うまでもないが、長期金利の上昇は、経済にさまざまな悪影響をもたらす。
また、円安で輸入物価が上昇しており、一部はいずれ消費者物価にも転嫁される。円安による物価上昇は、すでに政府が問題と認め、対策を始めた(飼料や漁船燃料の高騰に対する補助策)。他方で賃金は上昇しないから、実質所得が低下する。
以上の問題については、この連載ですでに何度も述べた。日銀は、異次元緩和の結果が以上のようになっていることを認め、政策変更について検討を開始すべきである。
【訂正】本連載32回(7月6日号)で、将来の課税所得と相殺できる繰越欠損金の一定期間は「7年」でなく「9年」です。訂正します。
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