前代未聞!「ラ・ラ・ランド」の作品賞が"幻"に なぜ大本命はアカデミー作品賞を逃したのか

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本作のダンスシーンも、チャゼル監督は俳優自身の肉体で一気に長回しで撮ることにこだわった。本作の主演を務めるエマ・ストーン、ライアン・ゴズリングらも本作で実際にダンスや歌を披露する。最先端のCGに慣れきった観客は、どんなにすごい映像を観ても「でもこれCGで撮ったんでしょ」と冷めた目で見るようになってきているだけに、その躍動感は非常に新鮮に映る。また、「アメリカン・アイドル」の振付師マンディ・ムーアによるエモーショナルなダンス、ゴージャスさとセンチメンタルさが同居した音楽なども心に迫る。

美術や衣装も、赤、青、黄といった原色を使ったカラフルでポップな色合いとなっている。衣装デザイナーのメアリー・ゾフレスによると、主人公のエマ・ストーンとライアン・ゴズリングだけでも50回以上も衣装を取り換えているそうで、そんなカラフルな衣装を観るのも楽しみのひとつだ。

昨年の反省やトランプ政権が結果に影響?

下馬評をくつがえし、今年のアカデミー作品賞を受賞した『ムーンライト』©2016 A24 Distribution, LLC

先述したとおり、アカデミー賞作品賞は、すべてのアカデミー会員の投票によって決定される。つまりノミネートされた部門が多ければ多いほど、その作品を支持する会員の数が多くなるのは必然となる。ハリウッドが「夢の王国」だった時代を現代にもう一度よみがえらせたいという若き監督の野心に、アカデミー会員が共鳴した――、というシナリオで今回のアカデミー賞は進むと思われただけに、黒人の貧困、ドラッグ、LGBTといった現代のアメリカが抱える問題と真っ正面から向き合った『ムーンライト』の逆転受賞には驚かされるばかりだった。

なぜ『ラ・ラ・ランド』は作品賞を逃したのか。その理由はもちろん投票したアカデミー会員ひとりひとりに聞いてみないと分からないところだが、あえて理由を分析すると、「昨年の“白すぎるオスカー”批判の反省」「多様性を認めないトランプ政権に対するハリウッドからのメッセージ」といった部分もあったのかもしれない。アカデミー賞では時折、大本命と言われた作品が作品賞を逃すということがある。そこがアカデミー賞予想の難しさでもあり、面白いところでもある。

日本でも、2月24日、アカデミー賞発表直前というまたとないタイミングで初日を迎えた。全国で満席の劇場が続出しているが、エマ・ストーン演じるミア・ドーランの愛車がトヨタのプリウスだったりと、日本人の心をくすぐるシーンもいくつかちりばめられているのも見どころだ。

作品賞は逃したものの、早くも「今年のベスト!」と興奮した声もあがる。興行収入50億円超の大ヒットも夢ではないかもしれない。

壬生 智裕 映画ライター

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みぶ ともひろ / Tomohiro Mibu

福岡県生まれ、東京育ちの映画ライター。映像制作会社で映画、Vシネマ、CMなどの撮影現場に従事したのち、フリーランスの映画ライターに転向。近年は年間400本以上のイベント、インタビュー取材などに駆け回る毎日で、とくに国内映画祭、映画館などがライフワーク。ライターのほかに編集者としても活動しており、映画祭パンフレット、3D撮影現場のヒアリング本、フィルムアーカイブなどの書籍も手がける。

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