前代未聞!「ラ・ラ・ランド」の作品賞が"幻"に なぜ大本命はアカデミー作品賞を逃したのか
そしてなんといっても、サンプリング世代ともいうべきチャゼル監督の“引用”の数々が映画を愛するアカデミー会員の研究心を刺激する。たとえばアメリカの雑誌『エンターテインメント・ウイークリー』のインタビューでチャゼル監督は、冒頭の高速道路での群舞シーンだけでも、マイケル・ダグラス主演の『フォーリング・ダウン』、ジャン=リュック・ゴダール監督の『ウィークエンド』、ジャック・ドゥミ監督の『ロシュフォールの恋人たち』、アルフレッド・ヒッチコックの『裏窓』、ルーベン・マムーリアン監督の『今晩は愛して頂戴ナ』、スタンリー・ドーネン監督の『掠奪された七人の花嫁』といった作品の影響があったことを明かしている。
往年の映画作品の技法をふんだんに“引用”
往年のハリウッド作品やフランスのクラシック映画を貪欲にかみ砕いて取り入れた作品は、深く掘れば掘るほどにはまり込んでしまう中毒性があるが、あくまでそれは物語を展開させるための彩りであり、そういった過去作を知らない人でも楽しめるところが、現在32歳ながら熟練した手腕を見せつけるチャゼル監督の真骨頂である。
撮影においても往年の映画への傾倒ぶりがうかがえる。「僕の手本は、(『輪舞』などで)映画史に名高いマックス・オフュルスの流麗なカメラワーク。ステディカム(スムーズな移動撮影を可能とするカメラ機材)のない時代にカメラを音楽のように、ダンサーのように動かした」「マーティン・スコセッシのボクシング映画『レイジング・ブル』のように、ボクシングのリングの中にカメラを置いたらどうなるか? 僕も同様にダンスの中にカメラを置きたかったんだ」と、監督が語るとおり、ダンスの中をカメラがダイナミックに動き、そしてカットを入れない長回しで、劇中のダンスの躍動感を余すことなく映し出す。
デジタル全盛の中、本作は35ミリフィルムでの撮影にこだわった。現在のシネマスコープサイズの横縦比は2.40:1だが、本作では往年のミュージカル映画で数多く使用された2.52:1の横縦比で撮影している。映画の冒頭にスクリーンが横に広がり、「シネマスコープ」のロゴが映し出される。チャゼル監督が、ミュージカル映画が持っていた魅力とそのエネルギーを現代に復活させたいという強い意志が感じられる。
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