前代未聞!「ラ・ラ・ランド」の作品賞が"幻"に なぜ大本命はアカデミー作品賞を逃したのか
前回の88回アカデミー賞でノミネートされた演技部門の俳優全員が白人だったことから(実はその前年もそうだった)、映画監督スパイク・リーや俳優のウィル・スミスが授賞式のボイコットを表明するなど、「白すぎるオスカー」としてその問題が表面化した。その反省もあって、米映画芸術科学アカデミーは、2020年までに多様な人種、女性の会員を増やすと宣言。手始めに、日本でも北野武、是枝裕和、黒沢清、河瀬直美、仲代達矢らに新たにアカデミー会員への招待状を送ったと報道された。
そして今年のノミネート作品を見ると、『ムーンライト』『フェンシズ(原題)』『ヒドゥン・フィギュア(原題)』『LION/ライオン~25年目のただいま~』といったアフリカ系アメリカ人やアジア人にスポットを当てた映画が数多くノミネートされた。そして、これらの映画からは「人種」の問題が色濃く浮かび上がっており、同時に排外主義的なドナルド・トランプがアメリカ大統領に就任した現状に対するアンチテーゼと見る論調もある。
”聖地巡礼”したくなる、ハリウッド愛全開の作品
もちろん政治的にこれらの作品・俳優が選ばれたわけではなく、どれを見ても作品の力で選ばれたのは紛れもない事実。それでもノミネート作品の傾向を見ると、近年、「人種の多様性」を標榜するハリウッドの自浄作用がきちんと働いていることが感じられる。
それでもまだまだ改革は道半ばで、「高齢の白人男性」がアカデミー会員の多数派である状況は今すぐには変わらない。そんな中、ハリウッドで働く多数のアカデミー会員にとって、『ラ・ラ・ランド』が謳(うた)いあげる「ハリウッドへの愛」は、彼らの心の琴線を刺激するには十分なテーマだったといえる。
サイレント映画のスターにスポットを当てた『アーティスト』(2012年の84回のアカデミー作品賞)や、映画撮影と偽ってイランからアメリカ大使館員を救出する『アルゴ』(2013年の85回アカデミー賞作品賞)など、ここ最近、銀幕や映画そのものを舞台にした作品が、アカデミー作品賞を取るケースが目立ってきている。『ラ・ラ・ランド』もその系譜に入る作品だろう。そう考えれば、作品を企画した段階からアカデミー会員に好まれる運命だった。
さらに、『ラ・ラ・ランド』には、ジェームズ・ディーン主演の『理由なき反抗』をはじめとした数多くの映画のロケ地となった「グリフィス天文台」や、映画『カサブランカ』で使われた「窓のセット」が組まれているワーナー・ブラザース・スタジオなど、ロサンゼルス各地で撮影を敢行している。思わず“聖地巡礼”をしたくなるようなロスの観光映画的な側面もある。そもそもタイトルの『ラ・ラ・ランド』とは、ハリウッド地域の愛称で、「陶酔し、ハイになる状態」「夢の国」という意味を持つ。当然こうしたシーンやタイトルが、アカデミー会員の“地元愛”をくすぐったことは間違いない。
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