バノンはトランプ政権「ナンバー2」ではない 大統領を「陰で操る黒幕」の意外な弱点

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ところが、真っ先にフリン氏の辞任を進言する側に回ったのは、フリン氏の盟友のはずのバノン氏だった。バノン氏にとって国家安全保障担当のアドバイザーとしてのフリン氏の存在は目の上のたんこぶだった。

フリン氏辞任が決まったあと、バノン氏はCPACの場でトランプ政権の最重要政策として、(1)国家安全保障(2)経済ナショナリズム(3)行政国家の解体の3つを高らかに唱え、すべての公約を実現させると断言して喝采を浴びた。さぞ清々とした気分だったことだろう。

バノン氏の正体は「ひとたらし」

バノン氏は極右的な思想「オルトライト」(ネット右翼)を掲げる「ブライトバート」の代表だった。女性や有色人種(マイノリティ)、移民に対する差別を包み隠さずに主張する一方で、いわゆるエスタブリッシュメント(エリートの既得権者)に対しても批判的だ。その主張が貧しい白人労働者の支持の高揚につながり、トランプ候補の選挙キャンペーンを裏から支えた。バノン氏のホワイトハウス内の現在の地位は典型的な論功行賞といえる。

トランプ氏とバノン氏とは昔からの根っからの友人ではない。意見や考え方も完全に一致しているわけではない。トランプ氏の大統領になりたいという政治的野心とバノン氏の政治的思想とがたまたま一致したところがあった。バノン氏は外部の人間としてトランプ氏に影響を与えているにすぎない。

トランプ氏もバノン氏に白紙委任状を出しているわけでは決してない。トランプ氏が無条件に信頼しているのは自分自身の家族だけと言っても過言ではない。愛娘のイヴァンカや女婿のジャレッド・クシュナー氏はじめ姉のマリアンらトランプ一族である。バノン氏もそのことは重々心得ている。

そのバノン氏の人間性、その正体を一言で表せば、「ひとたらし」ということだ。古くは織田信長に対する豊臣秀吉、現代でいえば故田中角栄元首相に対する小沢一郎氏のような存在である。目上の人に取り入るのがうまい。トップにかわいがられる。利用するだけ利用して相手が落ちぶれると見離すか、切り捨てる。バノン氏がフリン氏のクビをあっさり切ったのもその性格からして違和感はない。

今でこそ不健康そうな外見をしているバノン氏も、若い時はまったく違っていた。筆者は、バノン氏が1980年代にウォール街のゴールドマン・サックスで働いていた時に何度も見かけたことがあるが、ハンサムな男だった。彼はウォール街で働く前は海軍に7年間務め、そのあとハーバード大学のビジネススクールを卒業している。すでに30歳前後でウォール街では使いものになるかどうかという年齢と、ビジネスキャリアのないバノン氏がなぜウォール街で職を得ることができたのか。そこにも「ひとたらし」たる人間性の発露がある。

当時、ゴールドマン・サックスのCEOだったジョン・ワインバーグの息子ジョン・ワインバーグ・ジュニアとバノン氏は親しくなった。そのジュニアに取り入った。入社後はM&A部門に配属された。そこではユダヤ系アメリカ人やアイルランド系の優秀な人材に囲まれた。アイルランド系のバノン氏は「ひとたらし」としてうまく立ち回り、成功した。

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