「トランプ統制」は米国の技術革新に死を招く

救うはずの白人労働者をさらに苦しめる矛盾

こうした白人労働者は製造業に、小売業やサービス業では得られないやりがいを感じていた。働く意義があり、自身の成長や繁栄にも繋がると考えていたのだ。こうした「良い仕事」が奪われたことで、彼らは生きる意味を見失い、自殺や薬物中毒死が増えることになった。

この問題に適切に対処するには、まず、西洋の停滞の根本的な原因について考える必要がある。ハンセン氏は1934年の論文で、「長期停滞は新たな発明や産業の不足に起因する」と記している。

また、拙著「なぜ近代は繁栄したのか――草の根が生みだすイノベーション」で指摘したように、米国のイノベーション(技術革新)は1960年代後半に、建国以来初の後退期に入った。資本主義を繁栄させてきた個人主義思想に代わって政府のすみずみにコーポラティズムが浸透し、米国の革新的精神(想像力、探索力、実験力、創造力)が弱まったからだ。

産業統制は強化されており、新たなアイデアを持つ個人が起業するには政府の認可が必要だ。そして既存の業界に参入した会社は、政府に支援された旧来の企業群と競争しなければならない。シリコンバレーは新たな産業を創出し、技術革新ペースを短期間で改善したが、こうした新産業もリターンの減少を防ごうと躍起になっている。

技術革新を復活させるには、事業環境を変える必要がある。トランプ新政権は規制緩和だけではなく、競争のオープン化にも注力すべきなのだ。しかし、残念ながら、これまでのところトランプ政権は、技術革新を損なうような危険な取り組みを行う構えだ。

トランプ政権の3つのミス

トランプ氏はまず、米国の労働者が困窮しているのは自由貿易のせいだと主張している。だが、米国や英国、フランスなど伝統的な「技術革新国」で男性の労働参加が大幅に低下している一方、オランダやドイツなどの「貿易立国」では参加率が上昇している。これは、失業の主因が自由貿易ではなく、技術革新の喪失にあることを示している。

次に、トランプ氏は、法人税引き下げが雇用創出と賃金増をもたらすとしている。だが、こうした取り組みは公的債務の激増につながり、ゆくゆくは深刻な景気後退を招く恐れがある。

最後に、そして最悪なことにトランプ氏は、フォードやキャリアといった企業を叩く一方で、グーグルなどの企業を支援すれば、生産と雇用が増えると考えている節がある。この姿勢は、1930年代にファシストのイタリアやナチス・ドイツが行なって以降、ずっと途絶えていたコーポラティズム政策の拡大版だ。

こうした思考がはびこると、既存の企業を保護して新規参入をブロックするための産業統制が強化され、技術革新は大いに妨げられることになる。

政策立案者は、トランプ政権下でコーポラティズムが復活する危険性に目を向けるべきだ。現在の経済停滞と貧困に対するこうした取り組みは、技術革新の中心部分、そして米国の労働者階級に、取り返しのつかない打撃を与える恐れがあるのだから。

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