米国の政治思想は、コスモポリタニズム(世界市民主義)からナショナリズムへ、大都市に居む左派の「エリート」から田園に住む右派の「ポピュリスト」へと、大きくシフトしているようだ。経済思想の主流も、再分配を促す穏当なコーポラティズム(統制主義)から、介入度が強い旧来型のコーポラティズムへと移行している。
こうした変化の裏には、見捨てられた有権者の存在がある。米国人は何十年にもわたって、科学技術の進歩やシリコンバレーの台頭のおかげで、自分たちが経済成長の魔法のカーペットに乗っていると信じていた。
だが現実には、全体的な生産性の伸びは1970年代初めから鈍化傾向を続けてきた。1996〜2004年の「インターネットブーム」はあくまで、この流れを一時的に緩めたに過ぎない。
そして時間の経過とともに、企業はリターン減少を受け投資を手控えるようになって労働生産性と時間当たり賃金の伸びは縮まり、多くの労働者が失業する結果となった。
大恐慌後に似た「長期停滞」
この状態は、1930年代に当時のハーバード大のアルビン・ ハンセン教授が大恐慌後の状況を表現した「長期停滞」に似ている。超低金利による株価急騰で富裕層は打撃を受けなかったが、大衆の多くは、広範な景気回復よりも別のことを優先した歴代の指導者への怒りを抱えてきた。評論家の中には、資本主義が自然消滅してしまったと結論づける者さえいる。
実際に1970年以降、製造業非管理職の時間当たり平均賃金の伸びは、他業種に比べ極端に小さくなっている。男性の労働力率は女性と比較すると低下が著しく、2015年時点で、全雇用に占める製造業の割合は1970年の4分の1まで低下した。
米国の斜陽産業が集中するラストベルト地区(中西部から中部大西洋岸にかけての地域)では、製造業の雇用が失われた結果、白人労働者の生活水準は親の世代よりも悪化している。彼らは高所得層や働かない者たちが不当に優遇されていると感じ、不公平感を募らせてきた。
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