マティス国防長官は同時に、日米同盟における日本の費用面での貢献についても触れ、トランプ大統領が選挙戦中口走った「日本(やそのほかの米国の同盟国)は米軍駐留費を全額負担すべき」という考えについても、「棚上げ」することに努めた。今回の日米首脳会談でも、この件は話題に上らない公算が大きい。
また、マティス国防長官は、中国が領有権を主張する沖縄・尖閣諸島は、日米安保条約の適用範囲内であると再確認、その後レックス・ティラーソン米国務長官も岸田文雄外相との電話会談で、これを再確認している。
つまり、マティス国防長官は事前に日本を訪れたことによって、日米同盟は「日本の経済競争力向上にしかつながっていない」との考えをもつ(トランプ大統領含む)米政府内の強硬派の口を(少なくとも今は)封じることに成功したわけである。
中国が話題に上ることは?
一方、トランプ政権の貿易政策はまだ固まっておらず、国務省や国防総省におけるアジア専門家のポジションはまだ埋まっていない。トランプ大統領は、元銀行家で日本にも詳しいウィルバー・ロス氏を、自身の貿易政策チームのトップに据える考えだが、まだ確定はしていない。最終的にはロス氏で落ち着くことになるとみられるが、確定するまでは、トランプ政権がアジアにおける貿易政策について確定的なことを語ることはないだろう。
いずれにしても、トランプ政権の貿易政策における最大の焦点は中国になることは間違いないが、現時点では、南シナ海における米軍のプレゼンスなど、対中国に関する具体的な政策を日本と話し合う用意はできていない。マティス国防長官が来日した際も、南シナ海や台湾における日本の監視・哨戒(しょうかい)活動についての話は出ず、今回の首脳会談でも話し合われることはないだろう。
今のところホワイトハウスでアジア政策のカギを握っているのは、スティーブン・バノン首席戦略官と、ピーター・ナヴァロ国家通商会議代表である。対中強硬派で知られるナヴァロ氏は、これまで一貫して中国の貿易政策や東アジアにおける拡大主義を批判しており、それがトランプ大統領の目に留まったといわれている。今後は、バノン首席戦略官とナヴァロ氏のお眼鏡にかなったアジア専門家が政府に集められるとみられているが、いったんロス氏が貿易政策チームのトップに就けばナヴァロ氏の影響力は小さくなるのではないか。
今回の首脳会談におけるトランプ政権のキーパーソンの1人として、新たに大統領経済補佐官の次官に指名されたケネス・ジャスター氏を知っておくといいだろう。
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