「未来の家族」を話し合う場があまりに少ない 価値観が激突する「生殖医療と家族」を考える
――昨年度にプロジェクトが始動し、今年度は「ヒト受精卵に対するゲノム編集」「近未来の出生前検査」「第三者が介入する生殖補助医療と制度」という3テーマを取り上げていますね。なぜ今、この3つを取り上げたのでしょう。
それぞれどんな技術なのか、簡単に教えてもらえますか。まず「ヒト受精卵に対するゲノム編集」について。
新しい技術をどこまで使うのか?議論が必要
詫摩:「ゲノム編集」というのは、本当にここ数年でできるようになってきた、新しい技術です。これまであった「遺伝子組み換え」の技術と近いのですが、いちばんの違いは“非常に効率よく、高い精度で、狙った遺伝子だけを変えることができる”という点です。
今までも、たとえば血液が固まらない病気などの遺伝性疾患に対して、遺伝子組み換え技術で治療する「遺伝子治療」というものが行われてきました。
それが、狙った遺伝子だけ変えるゲノム編集の技術を使うと、「受精卵」に対して遺伝子治療を行うことが現実味を帯びてきたんです。これまでの技術だと卵子の数をものすごくたくさんそろえる必要があって、非現実的でした。ですが、ゲノム編集の技術なら、10個程度の卵子でも可能になる。受精卵に遺伝子治療ができるようになると、生まれてくる子どもの難病を治したり、さらには、近眼を治したり、鼻を高く、髪の色を明るくしたりすることもできるようになるかもしれません。
ただし、受精卵への遺伝子治療には、将来的なリスクもあります。遺伝子の働きというのは未知の部分があるので、ある病気の遺伝子を取り除いたら、別の病気にかかりやすくなってしまう、というようなこともあるんですね。
しかも、受精卵に対して遺伝子治療をすると、その子が大きくなったときの卵子・精子にも引き継がれていく。治療をされた子どもだけでなく、後の世代まで代々続いていく可能性も出てくる。
そうした技術を、個々人がどうとらえ、どんな場合に使うか。2015年12月に科学者だけでなく法学者や倫理学者、患者団体などが集まって行われた国際サミットでは、「今はまだ技術がそれほど確立されていないので、現時点で行うのは、将来の世代に対して無責任だろう」という見解が出されています。
ただ、技術はどんどん進歩しますし、社会情勢もどんどん変わるので、「それぞれの国で話し合うように」ということになったんですね。この企画もまさに、それをみんなで考えていこうというものです。
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