(第13回)阿久悠の履歴書4--明大から宣弘社へ
●上村一夫との運命的な出会い
7年間在籍した宣弘社で阿久悠は、必ずしも優遇されたわけではなかった。
ボツになった自作の企画書200本を、ロッカーから持ち出して、銀座2丁目のオフィスとおさらばするまで、企画課に所属した彼の代表作は、形あるものとしては残ってはいない。
むしろ、作詞家として自立する足がかりを得たのは、彼の才能を評価しバイト仕事を斡旋してくれた、社外の業界人の厚意によってであった。
さらに阿久悠にとって決定的だったのは、後に劇画『同棲時代』の作者となる上村一夫との運命的な出会いである。
阿久悠は、武蔵野美術大学のアルバイト学生として宣弘社に入ってきた上村の天才を、瞬時に見抜いた。自信のあった企画用絵コンテを、上村の作品を目にしたときから、恥ずかしくて二度と書けなくなったとさえ語っている。
アマチュアとプロの違いを、プロのCM企画者が、バイトの青年のイラストを見て直感したのである。
意気投合した二人は、無名であるが故の"黄金時代"を、草創期の広告代理店を舞台に満喫することになる。
それは60年代的な、あまりに60年代的な、才能溢れる無名の若者の出会いであった。
1952年生まれ。早稲田大学第一文学部卒。文芸評論家
著書に『吉本隆明1945-2007』(インスクリプト)、『評伝中上健次』 (集英社)、『江藤淳-神話からの覚醒』(筑摩書房)、『戦後日本の 論点-山本七平の見た日本』(ちくま新書)など。『現代小説の方法』 (作品社)ほか中上健次に関する編著多数。 幻の処女作は『ビートたけしの過激発想の構造』(絶版)。
門弟3人、カラオケ持ち歌300曲が自慢のアンチ・ヒップホップ派の歌謡曲ファン。
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