財政面で何の改革もしたくない、というなら、どんな弱体化した政権でも財政運営はできる。しかし、2025年には団塊世代が皆75歳以上となり、医療や介護の費用がますます増加する。その負担増に苛まれたくないなら、今から医療や介護の給付面での改革を着々と実行していかなければならない。負担増が嫌なら、給付の見直しを徹底するしかない。しかも、急激な改革は混乱を招くというなら、数年をかけて少しずつでも変えてゆかなければならない。
その歳出改革を実行するには、動機づけが必要だ。動機づけや目指すべき姿があいまいだと、現状維持に固執する人たちを説得して改革を実行することはできない。財政健全化目標を取り下げたり達成年次を延期したりすれば、改革意欲はそがれ、その動機づけは確実に失われる。
とはいえ、達成できもしない財政健全化目標を、形だけ維持していても意味がない。高すぎず低すぎない目標を掲げてこそ、改革の動機づけとなる。では、2020年度の財政健全化目標に、改革の動機づけとなる程度に実現可能性はあるのか。実は、過去の経緯を見れば、実現可能性はあることがわかる。
過去に年平均0.9兆円の増加に抑えた実績
今回の「中長期試算」での歳出の見通しはどうなっているか。試算で公表されている範囲でしか計算できないのだが、アバウトに言うと次のようになる。筆者の計算によると、歳出(基礎的財政収支対象経費)は国と地方の重複分を除くと、2017年度から2020年度にかけて約10.4兆円増えると見込んでいる(ちなみに、基礎的財政収支対象経費とは、歳出総額から公債費を差し引いたものである)。これが、前述の自然体の財政運営を想定した場合である。
では、過去の歳出動向はどうだったか。
「中長期試算」の金額と比較可能なものでみると、2006年度の国と地方の基礎的財政収支対象経費は107兆円だったが、2015年度には115兆円となっていた。つまり、9年間で8兆円増加した。国と地方合わせて年平均約0.9兆円の増加であった。その間、高齢化の進展、後期高齢者医療制度の導入、生活保護費の増大、物価上昇を上回る診療報酬の伸び、リーマンショックに対する景気対策などがあったにもかかわらず、国と地方合わせて年平均0.9兆円の増加に過ぎなかった。2006年度から2015年度の間の財政運営を、「緊縮財政」とはいわないし、国民皆保険制度は崩壊したとは誰も思わない(ちなみに、小泉内閣はこの期間の前である)。
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