「鶏肉の価格差」の意味を知っていますか スーパーには複数種類の鶏肉が並ぶが…

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ブロイラーを飼う環境だが、主流はウインドーレス鶏舎といって、その名のとおり窓のない大きな鶏舎であることが多い。窓がないと不快なのではないかと思われるかもしれないが、快適でなければ鶏の成長に支障が出てしまう。そのため鶏舎内は空調が万全に効いており、快適な環境であることが多い。また、1羽1羽がケージ(檻)に押し込められているという印象を持つ人がいるかもしれないが、それは卵をとる鶏の飼い方。基本的にはブロイラーは平飼いで育てるのが普通だ。

ウインドーレス鶏舎の外観(写真:十文字チキンカンパニー提供)

鶏肉の味にかかわる要因のひとつである餌だが、ブロイラーの場合はどこの生産者でもほぼ同じような原料と配合が考えられる。というのも、日本の畜産は養鶏にかぎらずほとんどが輸入穀物飼料に依存しており、成長速度を重要視する場合の餌の配合は、どの飼料会社でも似たようなものになってしまうからである。

さて、肉専用種であり、効率よく早い日齢で出荷体重に達するブロイラーの味は、淡白で柔らかいという言い方が最も合うだろう。基本的にブロイラーは、味付けをせずに焼いて塩だけかけて食べても、それほどおいしいものではない。肉にうま味が十分に乗る期間を飼っていない若い鶏なのだから仕方がない。しかし逆に、じっくりシーズニングスパイスや漬け汁でマリネして味をつけてあぶり焼きや唐揚げにすると、火が通っても柔らかくおいしく食べられる。もともとブロイラーの語源は英語であぶり焼きを意味するbroilという言葉で、じっくり水分を飛ばして食べるのに向いているということなのだろう。

評価が高いブロイラーの「秘密」とは

ブロイラーは鶏肉の中で最も安価なレベルにあるので、生産者間の競争も激しく、鶏の品種や設備などで大きく違いが出ることはない。それならどこのブロイラーも味は同じか?と思われるだろうが、そうでもない。餌の配合や飼育期間、気温などにも左右されて、違いが出てくるものだ。たとえばとあるブロイラー生産者が手掛ける若どりは、食味試験などをしても評価が高くなることが多かった。その秘密を聞いたことがあるのだが、理由は意外なところにあった。

「およそ9割の養鶏生産者が、鶏にやる餌に抗菌剤を添加しています。そうすることで鶏は胃腸の状態がよくなるので、下痢をせず食べた餌をすべて栄養として吸収できるんです。でもうちは抗菌剤を使わない。そうすると少し鶏のお腹が緩くなって、消化吸収の効率が悪くなってしまいます。結果、4日ほど飼う期間が長くなってしまう。けれどもその4日間が余計にかかることで、味が深くなっておいしくなるんですね」

残念なことにこの生産者さんは、その後、コストの問題から銘柄鶏を除いて餌に抗菌剤を添加することになってしまったのだが、たった数日間の差で味わいがよくなるというのは驚きだった(なお、肉用鶏への抗菌剤の使用には厳しい基準があり、それに沿ってなされているかぎりは安全性に問題はないとされている)。それ以降、折につけ産地の違うブロイラーを食べ比べしているのだが、意外なほどに味に違いがある。たとえば東北地方と九州南部の国産若どりを比べると、肉の締まりや匂いに違いがあることが感じられるのだ。もちろんそれは、濃い味のタレやスパイスをすり込むことで気にならなくなる程度の差なのだが、興味のある人は複数産地の国産若どりを買って食べ比べてみるのも面白いと思う。

次回は、国産若どりの上の棚に並んでいることが多い「銘柄鳥」と、高価な「地鶏」について解説する。加えて、おいしい鶏の価値観が変わってきている現状についても書いていきたい。

山本 謙治 農畜産物流通コンサルタント&農と食のジャーナリスト

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やまもと けんじ / Kenji Yamamoto

1971年、愛媛県生まれ埼玉県育ち。学生時代にキャンパス内に畑を開墾し野菜を生産。大学院修士課程卒業後、大手シンクタンクに就職し、畜産関連の調査・コンサルティングに従事。その後、花卉・青果物流通業を経て2004年に(株)グッドテーブルズ設立。農業・畜産分野での商品開発やマーケティングに従事する。その傍ら日本全国の佳い食を取材し、地域の郷土料理や特産物を一般に伝える活動をしている。ブログ「やまけんの出張食い倒れ日記」のほか、『激安食品の落とし穴』(KADOKAWA)、『日本の「食」は安すぎる』(講談社プラスα新書)など著書多数

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