実際には、鶏肉の味はさまざまな要因によって変わる。その要因を思い切り簡略化して方程式にすると、鶏肉の味=鶏の品種×餌×飼育期間と表せると思う。鶏の品種によって肉質のだいたいの方向性が決まり、与える餌の内容によって風味に変化が生まれ、飼育期間の長短によって肉の食感の強さとうま味の総量が変わってくる。ただし、一概に「この品種にこの餌をやってこの期間育てれば、いちばんおいしい鶏肉になる」とは言えない。料理によって求められる鶏の肉質も変わるし、そもそも個人の嗜好は十人十色だからだ。ここでは、それぞれの要因によってどんな違いが生まれるのかを簡略に述べたい。
そもそも鶏は赤色野鶏という、マレー半島にルーツを持つ野生の鶏が人に飼われるようになって家禽となった鳥だ。当然、家禽化される過程で人に都合のよいように品種改良が重ねられてきた。
人が鶏に求めるものといえば、その肉と卵だ。つまり早く太って肉がたくさんとれること、そしてなるべく卵をたくさん産むことが鶏の品種改良ポイントである。ただし成長の早さ(肉がとれる)と産卵率(たくさん産む)には負の相関があることがわかっており、基本的には両立しない。そこで鶏の品種は、肉用種と卵用種の2つに大きく分かれている。卵肉両用種というのもあるが、成長スピードも産卵率も専用種には及ばないのだ。ということで、肉になる鶏と卵を産む鶏は同じではないかと考える人が多いだろうが、実際には肉か卵か、どちらかに特化した専用種が選ばれている。
そして、肉用種としての品種改良が進んだ結果、ブロイラーと呼ばれる品種群が成立した。
「ブロイラー」が生まれた背景
ブロイラーという名称は品種の名前ではなく、効率よく育つ肉用種を指す言葉だ。現在のブロイラーは50日前後で体重が出荷に適する2.5キロ以上に育つというのが標準的だが、すでに国内では48日で3キロに達するものも少なくない。明治以前から日本に在来していた鶏の多くが、2.5キロに達するのに100日以上かかると言われているので、ブロイラーはとてつもない速度で成長するということがおわかりだろう。
第2次世界大戦中、米国などでは牛肉などが欠乏し、短期間に良質なタンパク源として生産できる畜産物のニーズが高まった。そこで鶏の肉用種の品種改良が進んだわけだが、最初から成長スピードが速かったわけではない。1957年の段階では、ブロイラーであっても成長に70日程度はかかっていた。それが2000年の段階で50日弱で達するようになっている。たったの20日しか短縮できていないじゃないかと思うかもしれないが、20日は生産者にとっては決定的な違いだ。というのも、年間に平均15万羽を出荷する養鶏業において、最大のコスト要因は毎日食べさせる餌代であり、成長を1日早めるだけで劇的なコスト削減になるのである。
ブロイラーと呼ばれる品種にもいろいろあるのだが、日本ではチャンキーと呼ばれる品種(正式名称はロス308)が8割以上を占めている。お米で言うコシヒカリのようなもので、世界的にもシェアの高い品種シリーズだ。ただ、おそらくその名前は店頭では目にすることはなく、表示されているのは「国産若どり(○○県産)」というような表示だけであることが普通だ。
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