日本のサービス業は「1人あたり」でG7最低だ

ITに合わせて「働き方」を変える努力を

人口ボーナスがあって経済が順調に成長している昭和のころなら、それでもよかったのかもしれません。しかし、社会福祉や貧困の問題が大きくなり続けている現状を考えれば、すでに悠々自適な仕事をしていられる時代ではないと思います。

「良い物を安く売るのが日本の美徳だ」と言うのであれば、その「美徳」の結果、子供の6人に1人が貧困に陥っている状況をどう説明するのでしょうか。医療・福祉制度が破綻し、人の命にかかわる手術ができなくなって、助かる人も助からないという未来も絵空事ではありません。人の命を危険にさらす「美徳」など、本当に必要なのでしょうか。私には、とてもそうは思えません。

このようなことを論じていると、「日本のサービス業は、昔から顧客を第一に考え、手軽な値段で質を追究してきた。生産性の低さはその結果であり、日本の文化・美徳に根ざしている」と主張される方がいますが、それは正しくありません。

事実として、日本と他の先進国の間で「サービス業の生産性」に開きが生まれたのは、1995年以降のことです。日本の生産性の伸びが停滞する一方、諸外国では生産性の大幅な改善が見られました。そのかなりの部分はサービス業におけるもので、それにはITの活用が関係しています。対価うんぬんより、この点が問題の本質です。

ニューヨーク連邦準備銀行の分析によりますと、1995年からアメリカなどの先進国の生産性が向上している最大の要因は、IT、通信業界の発達だと結論づけています。そのITが最も活用されている業種が、実はサービス業です。1995年以降、ほかの先進国の生産性が大きく向上して、日本の生産性が置いていかれている理由のひとつは、日本のサービス業がITを十分に活用できていないからという結論が導き出されています。

ニューヨーク連銀の報告書には、次の文書が記載されています。

“To successfully leverage IT investments, for example, firms must typically make large complementary investments in areas such as business organization, workplace practices, human capital, and intangible capital.”

簡単に意訳しますと、「IT投資の効果を引き出すには、企業が組織のあり方、仕事のやり方を変更し、人材その他にも投資する必要がある」ということです。ニューヨーク連銀は、それを1995年以前の、ITの効果が予想されるほど出なかった時代の分析から得られた教訓としています。

これを日本のサービス業に当てはめると、非常にしっくりときます。日本のサービス業はITの導入に際して、組織のあり方や仕事のやり方、人材などにそれほど大きな変更は加えてきませんでした。これが、日本のサービス業の生産性が低い最大の理由のひとつだと考えられるのです。

銀行はなぜ3時に窓口を閉めるのか?

わかりやすい例を1つだけ挙げておきましょう。日本の銀行の多くは、なぜかいまだに3時に窓口を閉めてしまいます。これは、銀行がまだそろばんと手書きの帳簿を使っていた時代の慣習の名残です。3時に窓口を閉めて、お札、小切手、小銭を手作業で確認して、帳簿に書いて計算、数字を合わせると、だいたい5時くらいになります。つまり、アナログ時代に、行員たちが5時に終業するための決まりなのです。調べてみたところ、これは明治時代に、海外から輸入されたルールであることがわかりました。

しかし、今はどうでしょう。ATMもあるので窓口の取引は減り、お札や小銭を数える機械もあります。帳簿は手書きではなくシステムが開発され、計算は機械がやってくれます。3時に窓口を閉める理由はないはずです。

さらに驚くのは、ATMを使った振り込みも3時までで締め切って、その後の振り込みは翌日扱いになるということです。システムを使った振り込みですので、支店の営業時間に合わせる意味がわかりません。あまりに気になったので全国銀行協会に尋ねてみたのですが、やはり理由はないそうです。ただ単に昔の名残が、検証されないまま続いているのです。

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