方向感ない日本株、いったん調整局面入りも 先行き不透明なのに、市場は「知らないふり」

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1カ月先の不透明感を示す日経ボラティリティ・インデックス(VI)は、20p台前後で推移している。同指数は25-30pを超えると先行き不透明感が高まると市場でみなされる。現在の水準を見る限りでは、先行き警戒感はほとんど意識されていないどころか、楽観的すぎるとの見方もできる。

では、破天荒な大統領を選出した米国のボラティリティはどうだろうか?米国のボラティリティ指数であるVIX指数(恐怖指数)は11.54と、大統領就任式前の12.78と比べると10%ほど低下している。昨年もっとも低かった水準は12月21日の10.93。VIX指数が昨年来安値圏で推移していることは、トランプ新政権のお膝元である米国株式、オプション市場の先行き不透明感は、ほぼ感じられないことを意味する。

しかし、これは明らかに矛盾している。市場では誰しも、「保護主義」を声高に主張するトランプ新政権を「不透明感が色濃い」と表現している。とても「安心できる政権だ」とは思っていないだろう。だが、米VIX指数を見る限り「トランプ新政権で、少なくても1-2カ月は株式、オプション市場は落ち着いた動きが続く」というような雰囲気を織り込んでいる状況だ。米VIX指数だけで判断するのは大雑把だが、米VIX指数の水準と、トランプ新政権に対する不透明感は明らかに矛盾が生じている。

方向感なく戸惑う市場、当面調整局面入りか

米VIX指数が低位安定しているということは、S&P500のオプション市場が動意付いていない、つまり先高感が意識されてのコール買い、先安感が意識されてのプット買いともに商い閑散となっていることを意味する。市場がトランプ新政権の誕生を楽観的に見ているわけではなく、個人投資家、機関投資家ともに方向感をつかむことができず売買を手控えていると考えたほうがよさそうだ。決して楽観視をしているわけではない。積極的な売買そのものを手控えていると見るべきかもしれない。

さて今後のスケジュールだが、来週の1月31日から2月1日の2日間にわたり開催される連邦公開市場委員会(FOMC)を控え、連邦準備理事会(FRB)がブラックアウト期間入り(発言を控える)するため、FOMCメンバーの講演はしばらく予定されていない。トランプ新大統領就任後、政策はまだ不透明なままで、今回の会合では、金融政策が据え置かれるとの公算が大きい。

米国の経済状況を探る上では、27日に発表される10-12月期の国内総生産(GDP)(速報値)が手がかりとなる。その10-12月期GDP予想は前期比年率で+2.2%と、7-9月期の+3.5%を下回る見通しだ。市場では、堅調な経済情勢が確認できた際、年内最初の利上げは3月と見られている。つまり、外部環境が最大の動意要因となっている日本株は、週末の10-12月期米GDPで利上げ観測が高まるかどうか確認するまで、身動きは取れないだろう。

そして、1月末から2月上旬にかけて、一般教書演説が実施される(おそらく31日(火))ほか、2月から3月には予算教書演説が実施される。市場では、この一般教書演説で具体的なインフラ投資及び金融、エネルギー政策の規制緩和に踏み込むのではないかと見られている。10-12月期米GDPや、一般教書演説を前にして、日本株は次の上昇局面に備えた調整局面入りを迎えると見ておいたほうが良さそうだ。

田代 昌之 マーケットアナリスト

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たしろ まさゆき / Masayuki Tashiro

北海道出身。中央大学文学部史学科日本史学科卒業。新光証券(現みずほ証券)、シティバンクなどを経てフィスコに入社。先物・オプション、現物株、全体相場や指数の動向を分析し、クイック、ブルームバーグなど各ベンダーへの情報提供のほか、YAHOOファイナンスなどへのコメント提供を経験。経済誌への寄稿も多数。好きな言葉は「政策と需給」。ボラティリティに関する論文でIFTA国際検定テクニカルアナリスト3次資格(MFTA)を取得。2018年にコンプライアンス部長に就任。フィスコグループで仮想通貨事業を手掛ける株式会社フィスコデジタルアセットグループの取締役も務める。

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