「世界一幸せなデンマーク人」と日本人の違い 働くモチベーションからして全然違う
――多様化が急激に進めば、階級や経済的な格差が広がる可能性も出てきます。
実際、経済格差は広がっていて、欧州でそのスピードが最も速いのが何を隠そうデンマークだ。これは将来のデンマーク人の幸福感や成功に大きくかかわってくるだろう。すでに米国も英国も国内が分断されているが、北欧諸国には信じられないほどたくさんの政党があるので、真っ二つに割れるということはないのではないか。ただ、残念なことにノルウェー、スウェーデン、フィンランド、そしてデンマークでも極右的な、反移民政党がいまや最も大きな政党になってきているのも事実だ。
――本の中では、都市と地方の格差についても触れていますね。
デンマークでは、コペンハーゲンとそのほかの地域とではまったく違う。そして、地方ではますます過疎化が進むことは避けられない。デンマークに住む18歳以上のほとんどは、コペンハーゲンに住みたいと考えている。最近では第2の都市であるオルフスが、ミニコペンハーゲンといった面白い都市になりつつある。ユニークな企業も増えていて、今後はいろいろなビジネスチャンスが生まれると思うが、医師も、教師も、子どもたちも住みたがらない。もし、コペンハーゲンに住む余裕がなければ、移るのはオルフスという状態になっている。
――天然資源に恵まれているノルウェーも原油価格が一時より下がっていることの影響を受けているようですね。
ノルウェーの場合、まだ「ソファの下」におカネはあるけれど、焦ってはいるだろう。英語で「put your all eggs in one basket(=1つのことにすべてを懸ける)」ということわざがあるのだが、まさにそのとおりで、今のノルウェーには石油以外これといった2次産業が育っていない。石油産業が栄える前は、最も多い職業が漁師だった。だから、ノルウェーには2次産業を育てる素地がない。これは大問題だ。
しかも、ノルウェーは世界で最も福祉が充実しているが、この源となっているのはオイルマネーだ。国民はさらに福祉を充実されることを求めているが、このままではインフレーションが起こり、貨幣価値が急落しかねない。ノルウェーはEUに加盟していないので、その点では経済構造は非常に脆弱だ。
――そうした経済状況が続けば、今の水準の福祉を維持するのも難しくなります。
実際、デンマークですらそういう議論が起きている。国家財政における社会保障関連費はいまだに年率2%ずつ増えているが、これをそろそろコントロールしなければいけなくなっている。皮肉なことに、つい最近まで社会主義的な左翼政党が政権を握っていたのだが、その政権は今まで歴史上のどの政権よりも社会保障費を削った。特に医療や教育の分野で。それしか選択肢がなかったからだ。
デンマーク人が根本的に幸せなワケ
――聞いていると、北欧諸国にも非常に多くの問題があることがわかりました。そういう状況にあってもデンマーク人が変わらず幸せを感じているのはなぜでしょうか。
デンマーク人は今あるものに感謝する能力に長けていて、今の状況に満足をしているんだ。もうひとつは、社会が非常に平等だということ。だからこそ誰にでもチャンスがあるということが大きい。北欧諸国では、誰もが高等教育にアクセスできるため、自分がなりたいものになれるというチャンスがある。
これに対して私が生まれ育った英国は、教育という点では劣る。どれだけおカネを持っているか、どれだけちゃんとした地域に生まれたかで、その後受けられる教育が決まってしまう。
ここから世界が学べることはひとつ。すべての子どもに平等な教育の機会を与えることだ。大学教育も含めて。
――あまり幸福感を感じていない日本人が、デンマーク人から学ぶべきことは何でしょうか。
日本人がすぐに幸福感を感じられる国民になるような明確な回答はないが、たとえば小さなことでも感謝する、今あるものに感謝するという姿勢が大事だと思う。何かモノを得て満足を得るのではなく、家族や友達と過ごしたり、自然の中で過ごしたり、高くなくてもおいしいモノを食べたりという、意味のある時間にもっと重きを置いたらどうだろうか。
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