この文書でナヴァロ氏とロス氏は、世界は国民国家によって形成され、ぞれぞれの国力は国内総生産(GDP)によって図られることを前提としているが、これはサプライチェーンや資本、労働力が容易に国家を超えてやり取りしたり、行き来したりしているグローバリスト的意見と完全に逆行する考え方である。
2人にとって、貿易赤字は、成長から差し引かれる純然たるマイナス因子だ。グローバル化の時代が残したのは、国力の源となる製造業の喪失だけだった、と両者は主張する。ロボット工学の先進国であるドイツと日本を取り上げ、米国の製造業衰弱の原因はオートメーションではなく、貿易赤字であると述べている。そして、「わが国の企業が、高い税金や厳しい規制という重荷によって海外へ押しやられていなければ、あるいは過小評価された通貨の誘惑と、不法な輸出補助金の利用といった不公平な貿易慣例によって海外に押しやられていなければ」、米国は競争力を取り戻すだろうとしている。
日本に対する評価は低くない
トランプ大統領の貿易チームは、彼らが保護主義者であり、共和党がかねてから持つ自由貿易支持姿勢を撤回するつもりではないのか、という疑いについては否定している。たとえば、ライトハイザー氏は2011年に「157年という歴史のほとんどの間、共和党は輸出を促進し、不公平な貿易輸出を回避する貿易政策をとることによって、国内の産業を育ててきた」とある記事に記している。
この記事でライトハイザー氏は、国内産業を保護するために関税の利用を支持した米国初期のリーダー、アレクサンダー・ハミルトン氏とヘンリー・クレイ氏を例に挙げている。また、レーガン元大統領についても、「輸入鋼材に関税を課し、日本との競合からハーレー・ダビッドソンを守り、半導体と自動車の輸入を制限し、米国の産業を弱体化させないように、類似した無数の手段を講じた」と称賛している。
この観点から、トランプ大統領の貿易チームは、日本や輸出主導の産業を成長させる国家政策を容赦なく行うドイツなどに対して、渋々ながら敬意を表している。ナヴァロ氏は1991年、日本について「この慢性的な貿易不均衡は、まさに両国が相いれないほどに異なっていることによる結果だ」と書いている。日本で最も優秀な人材が集まってくる日本の官僚組織が、「国家の政策目標を推進している一方で、米国の官僚組織は凡庸に陥っているままで、偏狭な自国の利害を促進しているだけだ」。
もっとも、トランプ大統領の貿易チームが、「反日本」と受け止めるのは早計だ。というよりは、彼らはいまや失われてしまった「かつての日本の」の体制についてあこがれすら抱いているといっていい。実際、ロス氏はニューヨークに拠点を置くジャパン・ソサエティ(日米協会)の会長を務めているほか、2014年には日本政府から表彰もされている。
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