トランプ新大統領、情報戦略に見る「致命傷」 ツイッターで発信、後に発言修正は危うい

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物事を単純化することには危険が伴うが、トランプ氏の国別優先度は第一が自国。これは当然だが、第二は日本でもないし、欧州各国でもない。ロシアではないか。中国は優先度がずっと下のようだ。それほどトランプ氏のロシアに関する発言は特徴的である。サイバー攻撃についてロシアがしたことを認めた際も、「ロシアだけでない」と問題を相対化していた。

思慮を欠いた言動にトランプ氏が走るのは、公職に就いた経験がないためであり、いずれ是正されるという見方もある。筆者も半分は賛成だ。トランプ氏は今、ビジネスの世界と同様の感覚で、”赤字”覚悟の政治的行動をしているように思う。ビジネスの世界といっても百人百様で、そう簡単に単純化できないのは承知している。しかしビジネスでは、ある程度の情報、ある程度の見通しに基づいて、行動を起こすことが必要になるだろう。中でもトランプ氏は極端にリスクをとる人らしく、「借金王」を名乗ったこともある。

それでもトランプ氏は、多額の赤字を抱え込んでも、持ち前のパワーと才覚で克服してきた。政治の世界でも負になる言動を繰り返して、”政治赤字”を抱え込んでいるが、いずれビジネスの世界と同様に克服するかもしれない。またそうなることを望みたい。

核ミサイルのボタンを持つ重責

だが、あと半分は恐ろしいことが起こりつつある、という気持ちだ。インテリジェンス(情報)のように、思慮を欠いた行動に走ると、致命的な結果になる世界があるからだ。

新大統領に就任すれば、トランプ氏は、核ミサイルの発射ボタンを身近に持つことになる。核の世界では「先に攻撃、後で修正」は絶対にあってはならない。もしそんなことが起これば、地球は破滅する。米国の大統領にそんなことを心配する必要はごく最近までなかったが、そんな心配は杞憂だとは断言できない。

トランプ氏には一刻も早く米国大統領の重責を認識してほしい。

美根 慶樹 平和外交研究所代表

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みね よしき / Yoshiki Mine

1943年生まれ。東京大学卒業。外務省入省。ハーバード大学修士号(地域研究)。防衛庁国際担当参事官、在ユーゴスラビア(現在はセルビアとモンテネグロに分かれている)特命全権大使、地球環境問題担当大使、在軍縮代表部特命全権大使、アフガニスタン支援調整担当大使、日朝国交正常化交渉日本政府代表を経て、東京大学教養学部非常勤講師、早稲田大学アジア研究機構客員教授、キヤノングローバル戦略研究所特別研究員などを歴任。

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