渋澤:でも、日銀のQQEが敗北ということになると、次の一手は何でしょうね。
中野:マイナス金利が本格化していくのではないかと考えています。QQEが失敗し、それでもインフレを引き起こさなければならないとしたら、残された手はマイナス金利の深掘りしかないでしょう。それこそ皆が預貯金に貯めているおカネを手放したくなるまでマイナス金利を深掘りする。そうすれば、預貯金からリスク資産に資金がシフトして、株価が上昇するでしょうし、おカネが動き出せば、デフレ脱却への道筋ができます。
ネットへの過度な期待が剥落した2016年
藤野:確かに、量的金融緩和が限界を来したことは、2016年の大きな話題でしたが、それだけでは読者の方も面白くないかと思うので、別の話をしましょうか(笑)。私は2016年を通じて、改めて真面目さが大事だと強く思った話です。
キュレーションサイトのパクリ問題が話題になりましたが、なぜあのような事件が起こったのか。それはおそらく経営において、「小さな投資で大きな成果を上げる」、「スピードが大事」ということばかりに注目が集まり、手間暇をかけることが貴ばれなくなったからではないかと思うのです。
メディアに関して言えば、一次情報に当たろうとせず、インターネットに流れている情報をちょろちょろっと拝借してきて、まとめサイトを作る。結果、私たちがメディアを通じて接している二次情報は、中身がどんどんスカスカになって来ました。それと共に、インターネットに対して我々が抱いていた幻想のようなものが、いよいよ剥落してきたなという印象を受けましたね。
中野:インターネットに対する幻想というと、いずれ世の中がフラット化するという?
藤野:そうです。私たちはこれまで、インターネットが普及すれば情報格差がなくなり、教育格差がなくなり、一部の人間が情報の非対称性を生かして大儲けすることで生じる、アンフェアな所得格差もなくなると信じていましたが、どうもそうではなかった。
実際、米国では上位1%が持つ資産は、下位90%が持つ資産の総量よりも大きいと言われています。インターネットが普及するなかで、逆に格差は大きく広がりました。こうした中で憎悪が生まれ、統一欧州の夢は崩れ始め、人々は再び地縁・血縁に依存するようになりました。
これはインターネットの普及で格差が是正されるどころか、格差が可視化されたからでしょう。結果、憎悪だけがものすごい勢いで伝播していきました。進歩的な思考を持つ米西海岸の人たちは、インターネットですばらしいテクノロジーを開発し、それを世界に広めていくことが正義で、そこで生じる優勝劣敗は仕方がないことだと考えてきたわけですが、現実にはアマゾンが巨大化する一方、真面目に本を売るビジネスに取り組んでいた書店がどんどん潰れ、ウォルマートでさえも大量の店舗閉鎖を迫られました。インターネットを核とするニューエコノミーに入れず、負け組になった人々は、実は想像した以上に大勢いて、その人たちが今回の米大統領選挙で、ドナルド・トランプ氏に票を入れたのだと考えています。
渋澤:私は「格差」ということよりも、「隔離」のほうが問題であると考えています。トランプ現象も、米国の都市部とその他地域の生活や価値観が隔離しているから起きました。インターネットは自分が聞きたい、見たいと思う情報しか見聞きしません。「私たちは草食投資家だから、肉食投資家の話は聞きたくない」などと、自分とは違う意見に対して耳を塞いでしまうのは、まさに自分自身を隔離しているのと同じです。
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