米国の金融市場に目を転じると、トランプ勝利を受けて株価が急騰、ダウ平均株価は過去最高値を更新している。ただ、ここまでの「トランプ相場」はトランプノミクスのプラス面(減税や財政出動による景気刺激、ドッド・フランク法の廃止による金融規制の緩和など)だけに注目した期待先行のユーフォリア(陶酔感)の印象が強い。
トランプ氏の政策が内包する中長期的なリスク(保護主義による貿易停滞、移民排斥による地政学リスクの上昇、財政不安やインフレなど)が意識されれば、トランプノミクスへの過剰な期待は剥落しよう。元々割高感が強まっているだけに、株式相場は修正局面を迎える公算が大きい。
「ビナイン・ネグレクト」復活でドル安容認も
大統領選後、為替市場では円安ドル高が進んだ。一方、トランプ氏は米製造業の復活を目指しているうえ、日本と中国は通貨安を誘導していると主張してきた。ゴールドマン・サックス(GS)出身のスティーブン・ムニューチン財務長官とともに、今後はドル高修正を求める発言をしてくるのではないだろうか。
元GSの財務長官として有名なのは、ロバート・ルービン氏とヘンリー・ポールソン氏である。クリントン政権下でルービン氏は「強いドルは米国の国益である」と主張、為替市場では円安ドル高が進んだ。強いドル政策の実情は、急増する経常赤字を海外から資金を引き寄せてファイナンスする手段であった。
ブッシュ政権のポールソン氏も強いドル政策を踏襲したが、ドル安を容認した。不動産バブル崩壊や金融危機の下で景気減速と景気後退が起こったうえ、経常赤字も縮小していたからである。強いドル政策を唱えながらもドル下落を静観するスタンスは「ビナイン・ネグレクト(benign neglect)」と呼ばれた。これは「優雅なる無視」などと訳され、米金融当局が為替変動を静観し続けたことを指す。
トランプ政権も米製造業の競争力を浮揚させるため、ビナイン・ネグレクトのようなドル安容認スタンスをとると思われる。現在、経常赤字は概ね安定しているため、敢えて強いドル政策を掲げて海外から投資マネーを呼び込む必要はないからだ。
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