地方再生、被災地復興には共通の課題がある 被災地の今から考える<前編>

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蒲生さんは昨年9月の陸前高田市議会議員選挙に出馬し、見事に当選している。避難所運営から仮設の見守り支援を経て、長期的な視点で町づくりの政策に関与するのは自然な流れに見える。

「1年生議員だから、まだいろいろ勉強しているところかなあ」

口ぶりは謙虚だが、蒲生さんが取り組む課題は決まっている。それは「少子化問題」。代々、陸前高田で生まれ育った。この町の学校の生徒数はほぼ1世紀余りで10分の1に減ったという。いつか、自分の子ども達が戻ってきたいと思うような、魅力的な町にしたい……。それが蒲生さんの夢だ。

長期的な活動へ

大震災と大津波から5年半が経った。私は9月下旬に現地取材を行い、岩手県と宮城県で働いたり生活したりしている人たち10数名に話を聞いた。

皆、震災により、仕事や生活で大きな変化を経験し、現在は地元のために、経験や専門性を生かして働いている。それぞれのやり方でリーダーシップを発揮している彼・彼女たちの関心事は「復興」から町の存続、そこで生きる人たちが力をつけるための長期的な活動へと、移行していた。

沿岸部には重機が並び、復興とはインフラ整備との印象を強める。ただ、今回話を聞いた人たちの視点はだいぶ違う。子どもや女性、若者が生きやすい街、働きがいのある仕事をどうやって生み出すかというテーマが多いのだ。こうした関心は国内の他の地方で聞く話と共通点が多い。地震と津波がきっかけであらわになった、日本の地方都市、農漁村部が抱える課題とその克服の方策について、記事前後編を通して考える。

石本めぐみさん(左)とウィメンズアイのコアメンバー

前出の陸前高田市市議会議員・蒲生哲さんのところに私を連れて行ってくれたのは、NPO法人ウィメンズアイ代表理事の石本めぐみさん。東洋経済オンラインでも以前、記事で紹介したことがある。

ウィメンズアイは、震災直後にボランティアとして宮城県や岩手県で活動していたメンバーが作った新しいNPOだ。そのビジョンは次のようなものである。「仮の暮らしが終わるとき、三陸沿岸被災地の女性たちが自らの場所でいきいきと活躍している」。そのために、「女性たちが、地域、社会につながるプラットフォームになること。女性たちが必要な力をつける機会をつくること。災害を経験した女性たちの声を内外に届けること」を目指して活動してきた。

こうした活動が必要とされる背景には、大震災と津波がもたらした、目に見えにくい課題がある。たとえば、岩手県には震災前、シングルマザーの支援団体がなかった。もともとあったのは戦争未亡人の支援団体。離別が多い現在のシングルマザーを支援する基盤がないことに加え、離婚したことを周囲に言えない、言うと女性の我慢が足りないと責められる風潮も根強かった。「生活保護を申請したいが、町役場の人が顔見知りなので行けない」という話も聞いている。こうした課題について取材・執筆し、地域で活動するキーパーソンを紹介してきた。

記事に登場した方の問題意識と活動は、政府の有識者会議で共有され、一部、政策に取り入れられたものもある。

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