東京海上が地方鉄道に社長を派遣したワケ 「真田丸」ブーム後見据え、軽井沢客取り込み

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しなの鉄道の沿線は「真田丸」ブームで大人気

「マジですか?」

上司から人事異動の内示を受けたとき、思わず耳を疑った。玉木淳さんは新潟県生まれ、新潟県育ちの46歳。上智大学卒業後、東京海上日動火災保険に入社。福井、名古屋、長崎という地方勤務を経て2005年から本店勤務だ。仕事はノリに乗っていて、「あと1~2年は異動はない」と思っていた。それが、突然の異動の内示。しかも長野県の第三セクター鉄道会社「しなの鉄道」に社長として出向せよという前代未聞の人事。今年2月の話だ。

東京海上が地方創生に乗り出した

そもそも、なぜ東京海上が保険とはまったく畑違いの鉄道会社に社長を派遣するのか。そこには2つの理由があった。まず、同社が近年地方創生に力を入れているという点だ。東京海上は大企業に強いというイメージがあるが、実際には保険料収入の7割は地方から得ているという。つまり、地方振興は東京海上の将来にとって重要な意味を持つ。東京海上ホールディングスの隈修三会長は経済同友会で地方創生委員長を務めている。また、今年4月からは宮崎県小林市役所にも社員を派遣し、観光振興で中心的な役割を果たしている。

もう一つの理由はしなの鉄道にある。同社は長野県が73%を出資する大株主だが、歴代の社長の多くが八十二銀行、JR東日本、スカイマーク、エイチ・アイ・エスといった民間企業出身。次の社長をどうするかということで、県が長野県出身の北沢利文・東京海上日動火災保険社長に話を持ち掛けたところ、「じゃあ、うちから出そうか」ということになった。

白羽の矢が立った玉木さんは、直前まで営業開発部次長として中小企業向けの保険の開発に取り組んでいた。つまり、長野県の中小鉄道会社に派遣するのはうってつけの人材だったのだ。最初は驚いた玉木さんだったが、「中小企業の経営者として地方の現場で汗をかくことは、経営の勉強にもなる」と思い直し、株主総会の承認を経て6月15日付で社長に就任した。

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