東京海上が地方鉄道に社長を派遣したワケ 「真田丸」ブーム後見据え、軽井沢客取り込み

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玉木さんがもう一つ考えているのが、車を運転するシニア層の取り込みだ。着想の元となったのは夏に走る「ビール列車」。通勤帰りの人をターゲットに金曜日の夜に運行しているが、ある老人団体から「昼間走らせて欲しい」と要望があった。「最近は昼間に居酒屋でお酒を飲んでいるシニア層も多いですから。昼間は空いている車両もあるし、普通の列車に1両増結してそれを居酒屋列車にすれば、それほどコストもかからない」。

社長就任早々、矢継ぎ早にアイデアを出す玉木さんを、「新幹線みたいな人」と、しなの鉄道・経営企画課の長澤伯穂さんは言う。「スピード感が違う。柔軟な発想力と行動力。我々社員はついて行くのがやっとどころか周回遅れです」。

しなの鉄道の観光列車「ろくもん」

玉木さんのアイデアはまだまだある。たとえば、2014年から運行開始した観光列車「ろくもん」。午前中や昼に運行する「ろくもん1号、2号」の食事付きプランは予約の取れないほどの人気だが、夕方に出発する「ろくもん3号」には食事付きプランの設定がなく、空いていることが多い。これまでは、「3号の対策が必要だね」で、それ以上議論されることなく終わっていた。が、玉木さんは、「3号はワインと軽食を楽しめるワイントレインとして売り出したい」と意気込む。

軽井沢の観光客を取り込む

ターゲットは軽井沢にやってきた観光客。普通なら東京や大阪に営業をかけるところだが、「軽井沢には年間840万人が訪れる。ここを開拓するのがいちばん効率的」。軽井沢には車でやってくる観光客も多いので、お酒を飲むなら域内移動は必然的に鉄道ということになる。夕方のろくもん3号でワインを飲んで、上田で下車して戸倉上山田温泉で宿泊する。あるいは上田で食事をして列車で軽井沢に戻る。軽井沢観光の新たな楽しみ方だ。

2015年に車両の老朽化のため廃止になった有料ライナー列車も復活させたいという。現在は、中古で良さそうな車両を探している真っ最中。「有料ライナー列車は費用対効果がよい。4000~5000万円の投資ならすぐ回収できる」。有料ライナー列車の廃止で利用客は快速列車や新幹線に流れてしまった。「廃止から3年も経つとそっちに慣れてしまって戻ってきてくれないかもしれないので、1カ月でも早く導入したい」。

玉木さんの出向期間は3年の予定だ。ただ、「3年では短い。最低5年はいないと十分な改革はできない」と玉木さんは言う。玉木さんが行なう改革、つまり積極的に投資を行なう結果、これまでの黒字経営から一気に赤字に転落する可能性もある。しかし、何もしなければ、設備の老朽化がじわじわと経営をむしばむ。「15年後、20年後にプラスになるかどうかを判断して、任期中は全力で取り組んでいきます」。

鉄道マンは日々の安全運行のために目の前のリスクに対処するという姿勢が体に染みついている。しかし、15年後、20年後という将来の経営リスクに備えて事前に手を打つという発想は、これまでの鉄道マンにはなかったことだ。玉木さんに託されているのは、リスクに備えて対策を講じるという保険会社からきた玉木さんでなければできない使命のようだ。

(写真:記者撮影)

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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