地方再生、被災地復興には共通の課題がある 被災地の今から考える<前編>

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たとえば、ある地方の漁師町では、親方とその妻を頂点とするヒエラルキーが地域に根付いている。漁師の妻たちは、同じ船に乗る人たち皆の「飯炊き」をする。こうした伝統を自然に受け入れる人もいるかもしれない。ただ実際は、若い世代になるほど避けたいと思うようだ。

ある漁師の妻は、こうした負担を避けるため、あえて外に働きに出た。彼女は後輩の若い漁師の妻に「あなたも早く仕事を見つけたほうがいいわよ」と忠告している。

「この環境では生めない」と思わせる空気

さらに言えば、問題は地方に限った話ではない。2年前の夏に起きた都議会のセクハラ野次を思い出してほしい。少子化対策について質問をした女性議員に対し、男性議員が聞くに堪えないヤジを飛ばした事件を覚えている人も多いだろう。

程度の差こそあれ共通する問題は、結婚や出産を、女性の我慢によって成立・継続させることを当然と考える発想だ。まさにこういう発想こそ、女性に「ここにはいたくない」「この環境では生めない」と思わせる空気を作り、少子化を招いていると私は思う。

再び目を被災地に戻す。沿岸部を通ると、数えきれないほどの重機が盛り土をしたり整地したりしている様子が見られる。復興予算を使い、新しい生活に必要なハードを整えることはできそうだ。もともと復興支援ボランティアとして東北に来た人が、美しい自然や美味しい食べ物、親切な人に魅せられて定住する例も少なくない。

こうしたプラスの動きを加速化し、大きな流れにするために必要なのは、若者にチャンスを与え、女性の意思決定への参加を認めることだ。次回の記事では、変えるための具体的な動きを見ていく。事例は東北の女性たちを元気づけるものである。地道な取り組みは、日本が直面する課題を考えるヒントになると思っている。

(後編に続く)

治部 れんげ ジャーナリスト

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じぶ れんげ / Renge Jibu

東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授。日経BP社、ミシガン大学フルブライト客員研究員などを経て2021年4月より現職。内閣府男女共同参画計画実行・監視専門調査会委員、日本ユネスコ国内委員会委員、日本メディア学会ジェンダー研究部会長、など。一橋大学法学部卒、同大学経営学修士課程修了。著書に『稼ぐ妻 育てる夫』(勁草書房)、『炎上しない企業情報発信』(日本経済新聞出版社)、『「男女格差後進国」の衝撃』(小学館)、『ジェンダーで見るヒットドラマ―韓国、日本、アメリカ、欧州』(光文社)、『きめつけないで! 「女らしさ」「男らしさ」』1~3巻(汐文社)等。

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