ただし戦後、支配勢力となった米国は、英国人の意向を無視して自国の利益ばかりを追求してきた。また、英国がナチス・ドイツに独力で立ち向かったとの誇りを持ち、自国を米国の特別なパートナーだとの考えを抱き続けてきたことは、英国がEU内で十分な役割を果たすのを妨げてきた。
米国の指導者は英国との「特別な関係」を強調してきたが、それは軍事作戦での協力を取り付けることなどを狙ったリップサービスだった。
トランプ次期政権はさらに、EUを離脱する英国との間で、経済ナショナリズムを重視したうえでの独自の連携に踏み切るとの見方がある。関連してライアン米下院議長は最近、米国は「不可分な同盟国」との「連帯」を示すため、英国との新たな合意を急ぐべきだと言明した。
だが、EU離脱を決めた英国を米国が特別扱いしたうえで、保守的な国同士として独自の関係を築くことは、チャーチル氏とルーズベルト氏が避けようとした道であった。経済ナショナリズムはかつて、欧州大陸を壊滅させた元凶だったからである。
トランプ氏の真意は不明だが
トランプ氏が英国のEU離脱を熱烈に支持しているのは、言葉のうえだけかもしれない。米国がほかの欧州諸国の大半よりも英国を優先することで経済的利益を失うリスクを取るとは考えにくいからだ。しかし政治家にとって言葉は重要だ。その真意はいまだに不透明である。
チャーチル氏はつねに正しかったわけではない。彼はドイツに押されて孤立していた1940年に英国の士気を高めるには非常に妥当な人物だったが、平時の政治家としては適切ではなかった。
植民地支配に関するチャーチル氏の見解は、大戦前の時点ですでに時代遅れと化していたし、戦後は人種差別的だと批判された。現在であれば、傲慢かつ不条理な人物だとされるだろう。
トランプ氏が今のような保守的な態度を変えなければ、米国の次期大統領は務まらないだろう。仮にチャーチル氏のブロンズ像を大統領執務室に置くならば、慄然(りつぜん)とした思いにとらわれるはずである。
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