「漠然とした不安が出てきたのは、中学2年のときです」
エスカレーター式のお嬢様系の私立中学に進学、大学を卒業している。両親は公務員で、いい環境で育ち、社会人になり、ちゃんと結婚して家庭を築いてほしいという親心があった。中学2年生で暗雲が立つ。
「自殺願望みたいなのが起こったのも、中2のとき。成績順でクラス分けがあった。それで私は悪いクラスになった。どうしよう、こんなことお母さんには言えないし、申し訳ない。情けないみたいな心境になって、お母さんにクラス分けのことをどうしても言えなくて、その日に初めて首を吊りました。首吊りはすごく苦しい。瞬間的に本当に死のうと思うけど、苦しくてわれに返るみたいな。何度も何度も、そんなことをしています」
中学時代から精神的に不安定になり、不眠や自傷、自殺未遂を繰り返すようになった。高校のときに彼氏ができた。彼氏に依存することで精神的に安定する。それから自傷をするのは恋愛絡み。彼氏が自分の気に入らないことをしたり、離れていきそうになると、彼氏が見ている前で手首や足首を切った。
大学生になっても男に依存する性格は変わらなかった。そして女子小学生のような服装もやめられない。フェアリー系のスタイルを徹底的に続けるのは、親と彼氏以外にも自分を見てほしいから。自己顕示欲が強く、声優や地下アイドルみたいな存在にあこがれる。自分がなれるはずがないとわかっていても、周りと同じ服装をして、目立つことなく埋もれていくのは考えられない。
派手な格好をして男に依存してばかり。このままでは親の期待に添えない。なんとか普通の社会人にならなくてはと、ドラッグストアに就職した。年収200万円に満たない非正規雇用だ。職場には優しい中年女性が多く、なんとか仕事は続けられた。3年前に口うるさい薬剤師が着任した。それからおかしくなった。ミスをすると怒鳴られて嫌みを言われ、「ばかたれ」と怒鳴られたとき適応障害が発症する。
親がいなかったら餓死
「我慢が足りないってわかっているんです。お母さんがいるからって、逃げ癖がついちゃっている。最悪です。まさにもう無意識に甘えちゃって、今に至っています。情けないし、むなしいけど、どうしても抜けられない。親がいなくて孤独だったら餓死しているし、これからどう生きていけばいいのかわからない」
梨美さんの話は終わった。彼女が望む自立に関しては、アドバイスすることもないので「いつか本当に死ぬから首吊りだけはやめるように」とだけ伝え、取材を終わらせた。
警察に連行された鈴木さんは、どうなったのだろうか。何時間かしてLINEする。「実家の兄が来て無事に帰れました。兄には怒られましたが、警察の人がいい人で旦那には知らせず、200円しないもの1個ということもあり、帰れました。でも次はないのでもうしません」と返信があった。
「もうしません」と言うが、彼女が再び万引きをして現行犯で捕まるのも、おそらく時間の問題だ。LINEには2人の子供の笑顔の写真があった。何度捕まれば実刑になるのか。スマホの画面に浮かぶ子供の満面の笑顔を眺め、悲しい気分になる。
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