親依存の30歳女性が「自分は貧困」と思うワケ 部屋の中はキャラグッズだらけだが・・・

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「漠然とした不安が出てきたのは、中学2年のときです」

エスカレーター式のお嬢様系の私立中学に進学、大学を卒業している。両親は公務員で、いい環境で育ち、社会人になり、ちゃんと結婚して家庭を築いてほしいという親心があった。中学2年生で暗雲が立つ。

「自殺願望みたいなのが起こったのも、中2のとき。成績順でクラス分けがあった。それで私は悪いクラスになった。どうしよう、こんなことお母さんには言えないし、申し訳ない。情けないみたいな心境になって、お母さんにクラス分けのことをどうしても言えなくて、その日に初めて首を吊りました。首吊りはすごく苦しい。瞬間的に本当に死のうと思うけど、苦しくてわれに返るみたいな。何度も何度も、そんなことをしています」

中学時代から精神的に不安定になり、不眠や自傷、自殺未遂を繰り返すようになった。高校のときに彼氏ができた。彼氏に依存することで精神的に安定する。それから自傷をするのは恋愛絡み。彼氏が自分の気に入らないことをしたり、離れていきそうになると、彼氏が見ている前で手首や足首を切った。

大学生になっても男に依存する性格は変わらなかった。そして女子小学生のような服装もやめられない。フェアリー系のスタイルを徹底的に続けるのは、親と彼氏以外にも自分を見てほしいから。自己顕示欲が強く、声優や地下アイドルみたいな存在にあこがれる。自分がなれるはずがないとわかっていても、周りと同じ服装をして、目立つことなく埋もれていくのは考えられない。

派手な格好をして男に依存してばかり。このままでは親の期待に添えない。なんとか普通の社会人にならなくてはと、ドラッグストアに就職した。年収200万円に満たない非正規雇用だ。職場には優しい中年女性が多く、なんとか仕事は続けられた。3年前に口うるさい薬剤師が着任した。それからおかしくなった。ミスをすると怒鳴られて嫌みを言われ、「ばかたれ」と怒鳴られたとき適応障害が発症する。

親がいなかったら餓死

「我慢が足りないってわかっているんです。お母さんがいるからって、逃げ癖がついちゃっている。最悪です。まさにもう無意識に甘えちゃって、今に至っています。情けないし、むなしいけど、どうしても抜けられない。親がいなくて孤独だったら餓死しているし、これからどう生きていけばいいのかわからない」

梨美さんの話は終わった。彼女が望む自立に関しては、アドバイスすることもないので「いつか本当に死ぬから首吊りだけはやめるように」とだけ伝え、取材を終わらせた。

警察に連行された鈴木さんは、どうなったのだろうか。何時間かしてLINEする。「実家の兄が来て無事に帰れました。兄には怒られましたが、警察の人がいい人で旦那には知らせず、200円しないもの1個ということもあり、帰れました。でも次はないのでもうしません」と返信があった。

「もうしません」と言うが、彼女が再び万引きをして現行犯で捕まるのも、おそらく時間の問題だ。LINEには2人の子供の笑顔の写真があった。何度捕まれば実刑になるのか。スマホの画面に浮かぶ子供の満面の笑顔を眺め、悲しい気分になる。

本連載では貧困や生活苦でお悩みの方からの情報をお待ちしております(詳細は個別に取材させていただきます)。こちらのフォームにご記入ください。

 

中村 淳彦 ノンフィクションライター

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なかむら あつひこ / Atsuhiko Nakamura

貧困や介護、AV女優や風俗など、社会問題をフィールドワークに取材・執筆を続けるノンフィクションライター。現実を可視化するために、貧困、虐待、精神疾患、借金、自傷、人身売買など、さまざまな過酷な話に、ひたすら耳を傾け続けている。著書に『東京貧困女子。』(東洋経済新報社)、『私、毒親に育てられました』(宝島社)、『同人AV女優』(祥伝社)、『パパ活女子』(幻冬舎)など多数。Xアカウント「@atu_nakamura」

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