2017年の波乱要因は想定外の「原油価格上昇」 OPECの減産合意は過小評価されている

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

しかし、ここまで生産コストが下がってくると、コスト削減のペースは鈍化するとみるのが常識的である。劇的なコスト削減が確認できなければ、市場への影響は限られるだろう。現状では50ドル以下の原油価格で生産を継続できる産油国・生産者は皆無に近い状況なのだが、市場はこの点を正しく評価できていないようである。

その理由は、原油市場でのプレーヤーの多くが、金融関係者になったことにあるだろう。つまり、今回のOPEC減産合意の現物市場の需給バランスに与える影響について、コモディティの現物取引の経験がないことや過去の歴史を知らないことで、減産合意のインパクトを正しく評価できていないのではないかと筆者は考える。

今見てきたように、OPECが今回決定した合意が実行されれば、計算上はとてつもない需給バランスの改善になる。生産コストから考えるだけでも、いまの50ドル近辺での原油価格が長期化すると考えることに無理があるが、減産合意によって、これからは原油価格の大幅な水準訂正がいつ起きても不思議ではないと考えられる。

原油価格は需要サイドではなく、生産者サイドに価格決定権がある。過去の世界の石油需要は、第2次オイルショックおよびリーマンショックの翌年の2009年を除いて、毎年確実かつ着実に増加している。日量100万バレルの増産が毎年必要なことを考えれば、今回の決定通りにOPEC加盟国が生産を順守すれば、計算上の需給は相当引き締まることは言うまでもない。

2017年中に60ドルを試し、長期は100ドル回復も?

今回の決定をきっかけに、WTI原油は50ドルの大台を固めながら、まずは55ドルを試すことになるのだろう。しかし、これはあくまで通過点でしかない。ドル高が是正されれば、60ドルを来年中にも試す可能性は十分にある。それでもまだ通過点であろう。長期的には100ドルを回復しても、筆者は全く驚かない。むしろ、現在の原油価格は安すぎるというのが筆者の評価である。

さて、もし今後原油価格が急伸した場合、株式市場はどのような反応を示すだろうか。これを「買い材料」ととらえるのだろうか。それとも、景気を圧迫すると考え、「売り材料視」するだろうか。

いずれにしても、インフレ率の想定外の急伸は不可避となる。本音では、出来る限り低金利で推移させたいと考えているFRBの金融政策のかじ取りも、そうなると今後はかなり難しくなるだろう。

ドル高基調に関しても、いつまで続くかはわからない。もし、ドル安に転じれば、ドル建て原油価格は押し上げられる。本音ではドル安を志向している米国が、ドル安政策を実施すると、来年はドル安によるインフレに苦しめられる可能性も出てくる。株高の維持にはドル安が不可欠だが、もし原油高とインフレ率が上昇したら、どのように対処するのか。

市場ではトランプ氏の財政政策にばかり目が向いている。だがインフレ抑制には金融政策が必要になるはずだ。もし原油価格が上昇に転じれば、インフレ率の上昇は不可避である。特に米国の消費者物価指数(CPI)とWTI原油の前年比の動きはほぼ一致している。現在の原油価格には将来の需給改善は全くと言ってよいほど織り込まれていない。今後は原油高が鮮明になった場合のインフレ懸念が、景気動向や金融市場にとっての「ワイルドカード」になるものと、筆者は考えている。

江守 哲 コモディティ・ストラテジスト

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

えもり てつ / Tetsu Emori

1990年慶應義塾大学商学部卒業後、住友商事入社。2000年に三井物産フューチャーズ移籍、「日本で最初のコモディティ・ストラテジスト」としてコモディティ市場分析および投資戦略の立案を行う。2007年にアストマックスのチーフファンドマネージャーに就任。2015年に「エモリキャピタルマネジメント」を設立。会員制オンラインサロン「EMORI CLUB」と共に市場分析や投資戦略情報の発信を行っている。2020年に「エフプロ」の監修者に就任。主な著書に「金を買え 米国株バブル経済の終わりの始まり」(2020年プレジデント社)。

 

 

 

 

 

 

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
マーケットの人気記事