木本:なるほど。値段は高くせず、今あるものを、お年寄りが使いやすいように変化させることが大事ですね。でも、そうなってしまうと新しいものが生み出せなくなって、大事なイノベーションという部分が衰退する危険もありますね。
森田:シニア向け製品におけるイノベーションということは考えられるでしょう。国内だけでなく世界を見渡せば、シニア向けの新技術や新サービスの市場規模は、どんどん大きくなります。アジアの国も高齢化が進み始めており、日本の社会状況を追いかけていきますから。
木本:日本が先行できる、と。
森田:それはあり得ます。しかし、カギを握るのは、引退をせずに働き続ける「若いお年寄り」をどれだけ増やしていけるか、でしょう。年金に頼らず、収入を得ながら活発に消費を続けるお年寄りが増えれば、消費行動を全体として上へシフトさせることができます。
木本:なるほど。そのうえで、運転者が気を失っても安全に止まる仕組みを搭載した自動車に乗ることを義務付ける、などの施策も必要になるかもしれませんね。
森田:高齢者が長生きするのは結構なことです。しかし、忘れてはいけないのは、幸せな人生を送るには誰かの支えが必要だ、ということ。その支えてくれる人が減っていくわけです。とくに独身の方は深刻です。男性の場合には4人に1人が生涯独身。高齢化したときにどうなるのか。今でも深刻な問題ですが、これからますます問題が大きくなります。
木本:そうですね。僕は4人兄弟で、たまたま4人で祖母や父の世話ができていますが、一人っ子だったらどうなっていたんだろうか、と想像してしまいます。
シルバーデモクラシーが若者の希望を奪う
森田:一人っ子は多いですから。子どもが多ければ、一人だけ親元に残って、あとは都会に働きに行く――これが地方における標準的な家庭の在り方でした。結果として都会の人口が急増し、高度経済成長を促したわけです。その一方で、地方に残っている子どもが墓を守り、親を養ったわけです。
ところが、今は一人っ子が都会に出てしまうと残るのは親ばかり。元気なうちはともかく、その人に介護が必要になった時にどうするか。都会での仕事を辞めて介護のために地方に帰らざるを得ない人はたくさんいます。そうした方は、ますます増えていくでしょう。
木本:確かに「介護離職」という言葉を目にするようになりました。僕自身も、安心して年を取れないな、老後が不安だな、という実感があります。
森田:今の40歳代は大変でしょう。今の高齢者は年金もあり、支えてくれる人がいる。ところが、次の世代では年金は使い果たしているから、ほとんどもらえなくなる。そのあとの世代になると、もっと厳しくなります。
それでも若い人に大きな負担をしてもらう仕組みは変わらない可能性がある。なぜなら、有権者に占める高齢者の割合が多くなってシルバーデモクラシーと呼ばれる傾向が強くなっていくからです。若い人たちが「嫌だ」と投票しても、政党は、今の高齢者の利益になるような政策を選ぶ。高齢者のほうが票数が多いからです。
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