それよりも、為替レートの方向性は、マネーの価値を左右する日本と米国の金融政策によって決まるという大きな原則をもとに、ドル円相場の大きな流れを理解するのが妥当だし、今後の行く末についても考え易いだろう。
足元と同様の大きな円安トレンドが生じた最近の事例を振り返ると、1)2012年末~2013年春までに1ドル80円前後から100円台まで大きく進んだケース、そして2)2014年末~2015年半ばまでに100円前後から125円付近まで円安が進んだケース、の2つが挙げられる。
日米の金融政策転換がもたらした「ドル高円安相場」
結論から先に言えば、今回のトランプ相場は、過去2つのケース同様に、日米の金融政策の転換がもたらす大相場と同様に位置づけることができる。そう考えれば、2年ぶり3回目の大幅円安が起きるのは不思議ではない。つまり、わずか2週間での10円余りの急ピッチな円安は、「円安の大相場の始まり」と位置付けることができる。
まず、2012年後半を起点とした20円以上円安が進んだケースは、まさにアベノミクス相場のスタート地点である。当時の民主党の野田首相が、国会解散を突如宣言した同年11月半ばから円安が始まり、12月半ばに安倍総裁率いる自民党が総選挙で圧勝する過程で、1ドル80円前後だったドル円は、90円付近まで円安ドル高となった。
この選挙戦では、安倍自民党総裁は日本銀行による金融緩和強化を軸とした脱デフレを公約に掲げ選挙戦を戦った。翌2013年に日銀総裁などの任期を迎える中で、日銀の政策大転換で早期にデフレ脱却が実現するとの期待が、大幅円安を引き起こした。
実際に、安倍政権は政府と日銀の2%インフレ目標協定を打ち出し、また金融緩和が不十分と日銀を強く批判する重鎮経済学者の浜田宏一イェール大学名誉教授を内閣府参与に任命する。
そして日銀執行部人事では、財務省や日銀などの推薦を重視する従来の慣行を打ち破り、黒田東彦総裁、岩田規久男氏という誰もが認める従来からの日銀批判論者を総裁・副総裁に据える人事を断行。
その後の国会で両氏の任命については、デフレ推進勢力である野党の反対で危うかったが、なんとか無事通過するという幸運も重なった。そして、黒田総裁率いる新たな日銀は、就任直後の4月に、2年間で2%インフレ目標を実現するために、ベースマネーを2倍に拡大させる政策を据え、従前とは全く異なる規模で国債購入を行う量的質的緩和を導入。そして、ドル円相場は一挙に100円台の大台まで円安ドル高が進んだ。
第二のケースはどうか。第一のケースからほぼ1年半後、日本経済は2014年4月の消費増税による悪影響で成長率は失速し、順調に上昇していたインフレ率にも鈍化の兆しがみえてきた。2%インフレの実現を目指す日銀は、2014年10月末に事前の市場予想を覆す格好で、量的・質的金融緩和第2弾を発表し、国債、ETF(上場投資信託)などの買入れ購入を拡大させた。これをきっかけに、低下に転じかけていたインフレ期待が再び上向き、円安と株高が再起動する。
2014年8月まで1ドル100円前後だったドル円は、9月にFRB(米連邦準備理事会)による量的金融緩和縮小期待が高まったことで100円台半ばにドル高円安に動いた後、日銀の「QQE2」(量的金融緩和第2弾)発動によってわずか1カ月半で120円前後まで大きく円安ドル高が進むことになる。
なお、2014年夏場にドル円100円前後で推移していた時期には、円高・円安市場の見通しは分かれていたが、同年8月に筆者は、「米国経済が堅調でFRBが引き締めに一歩踏み出す」、「日本経済は消費増税の悪影響で日銀が緩和に踏み出す」という構図を見抜き、円安見通しを述べていた(「ドル円相場は「緊張の夏」を迎えている」)。
「過去2回と同様のドル高円安」が起きる可能性は十分
実際に、2014年10月には、FRBは量的金融緩和縮小(テーパリング)を始め、先述したとおり日銀はQQE2を打ち出した。金融政策の方向性と、それに対する市場の期待形成が、ドル円の方向性を決する典型的なパターンである。
上記で説明した過去4年でみられた大幅な円安ドル高の値動きは、日銀の金融緩和強化、そしてFRBの緩和縮小がいずれも影響していることが分かるだろう。これらの二つの先例とトランプ相場とされる現状を比較することで、これらと同様に大幅なドル高円安が起きるかどうか判断できる。
金融市場が2016年6月のBrexit(英国のEU離脱)騒動、その流れで米大統領選挙の行方に市場の注目が注がれていた2016年9月から、実は日銀は金融緩和強化をしっかり行い、そしてFRBは2016年末の利上げ再開に前進するという、かつての同じ構図が鮮明になっている。つまり、足元のトランプ相場でも、過去2回と同様のドル高円安が起きるシナリオは十分想定できる、と筆者は考えている。
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