「女たちの政治」が揺るがし始めた世界の秩序 日本も変わらずにいられるわけがない

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英国では、EU離脱を決定したレファレンダムに続く保守党党首選で女性候補者同士が一騎打ちとなったが、「テリーザ・メイ内相には子供がいない。自分は妻であり、母親であり、家族がいるぶん彼女より真剣に英国の将来にコミットしている」と発言した家庭派のアンドレア・レッドソムエネルギー閣外相(肩書きは共に当時)は、「首相としての資質に子供の有無は関係ない」「それを持ち込むのは政治家としてナイーブだ」と世間の批判にさらされ、党首選を降りた。

「英国のEU離脱もトランプ米大統領選出も、教養と知性のある自分たちの考え方こそがまっとうだ。そうでないものは貧しくて無知蒙昧」。そんな考えのもと、のちに自分たちの傲慢を思い知らされた人々の予想を全力でちゃぶ台返しする形で決定した今、次に注目が集まるのは、2017年のフランス大統領選だ。

徹底的な反ユダヤ主義や外国人排斥を標榜した極右政党、国民戦線の初代党首、ジャン=マリー・ル・ペンの三女として党を継承したマリーヌ・ル・ペンは、ISによるテロ群発以降、反イスラム色を強めた。トランプ大統領誕生にいち早く祝辞を述べたのも彼女だ。

新世界秩序に「女」という同類項はもう機能しない

反移民感情が高まる欧州、特にISテロの舞台となった当のフランスにおいては、2017年の大統領選でル・ペンが善戦してしまうのではないか、いやひょっとすると勝利してしまうのではないかと、三たび「まっとう」な(それはすなわち彼らがもはや”革命階級”ではないという証なのだが)人々の間に不安げな憶測が飛ぶ。

英国の例では、レッドソムが女性だからといって、女たちは遠慮も手加減もせずに批判した。フランスの例では、よりによって極右政党の代表者が「育ちの良い、インテリのフランス女」であること、そして2012年の大統領選ではオランド、サルコジに次ぐ3位についたル・ペンが、テロの不安感とイスラムへの不信感が増す現在、明らかに支持層を広げていることに、世界が脅威を感じている。

女性政治家の数が増えれば、みなが「女性政治家とは」と思い込むステレオタイプなど過去のものとなる。政治的に右から左まで様々な女性政治家が出現し、投票する女たちの側にも、右から左まで様々な意見が形成される。女たちに「女である」というだけの同類項は、もう機能しない。女だからとひとまとめにされて黙って仲良くすることなど、ポスト・ブレグジット、ポスト・トランプの新世界秩序のもとでは、不可能だ。

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