「女たちの政治」が揺るがし始めた世界の秩序 日本も変わらずにいられるわけがない

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大統領選後の会合で心境を語ったヒラリー・クリントン(写真:ロイター/アフロ)

「女は一枚岩なんかじゃない」――。

世界がそれを思い出したのは、ヒラリー敗北の背景にある保守的な女たち、いわゆる「クッキーを焼く女たち」の無言の反対票の存在が明るみに出たときだった。「野心家でヒステリックに笑うヒラリー」か、「眉をひそめるような問題発言を繰り返すトランプ」か、どちらも嫌いな中で消極的選択をした結果、「ヒラリーを大統領にするくらいなら」とトランプへ投票した女たちが、蓋を開けてみると本人たちが思っていたよりもはるかに多く存在したのだ、と伝えられている。 

「ヒラリー・クリントン、あの女は”災害”よ」

そうかと思えば、おそらくクッキーを焼くことになど興味がない女たちの中にも、アンチ・ヒラリーはいる。「ヒラリーは権力の中に住むエスタブリッシュメントであり、女性の味方などでは毛頭ない。そんな彼女が大統領選挙戦でジェンダーカードを切るのはフェミニズムの蹂躙で、あの女は”災害”だ」。保守系の英政治誌『スペクテイター』でそう言い放ったのは、”アンチ・フェミニズムのフェミニスト”と呼ばれる米フィラデルフィア芸術大学の女性学教授、カミール・パーリアだ。

BBCでは、FacebookやYouTubeを使ってヒラリーへの罵詈雑言を詰め込んだビデオを発信し続け、話題となった25歳のエミリー・ロングワースを紹介していた。3年前まで米軍の武器修理専門官だった彼女は、頑強な保守派だった祖父や父親と政治について語り合いながら育った。ヒラリーを「嘘つきで、他人を操る、ナルシストな女で、一生刑務所に入っているのが何よりふさわしい」と評するなど、強烈な憎悪を露わにする。これは25歳のエミリーが「パパの忠実な娘」となった、その結果だ。

アンチ・ヒラリーという現象自体は同じに見えても、その女たちがこれまでにどう育ち、どうしてその意見を持つに至り、いまどう暮らしているかはさまざまだ。「アンチ・ヒラリー」さえも一枚岩ではなく、女たちは同じファッション、同じ顔などしていない。女たちは、いまやそれぞれの意見を持ち、発言し、政治的にもバラバラなのである。

「女と政治」にまつわる世界的な胎動は、確実にそこにある。日本でも、2016年は東京に小池百合子が立ち、あれこれを経てなおその手腕に期待がかかる。第2次安倍内閣に比べると減ったものの、現内閣にも3人の女性閣僚がいる。まして政権が「女性活躍」を標榜して機運を推す中、そして女性政治家の数を担保するクオータ制さえ世間で言及され散々賛否を呼ぶ中、ひょっとしたら遠からず、日本初の女性首相が誕生する姿も拝めたりするのかもしれない。

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